TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第1章 誰のために働くの?<後編>



03.13.12

第1章 誰のために働くの?<後編>

前編のお話

チーズ職人のチュー太は修業を積み、独り立ちをすることになりました。しかし、どんな味のチーズを作るべきか悩んでいました。そこへ親方が自分自身の経験からアドバイスします。親方は自分が好きな相手に喜んでもらうためにチーズを作っていること、そして、誰に喜んでもらうためにチーズを作るのかを特定しないと、特徴のあるお店作りはできないのです。 前編の全文はこちらへ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1章<後編>

 

こうしてチュー太は、どんなお客さんのためにチーズ屋を始めるかを考え始めました。でも、チュー太には、奥さんも彼女もいません。しかもチュー太の両親は、二匹ともチュー太が小さい頃に死んでしまっているので、チュー太はよく覚えていません。だからチュー太は、自分が誰のことを好きなのかが、よく分かりません。親方のアドバイスを受けて、すっかり目の前が開けたと思ったチュー太でしたが、またもや悩み始めることになってしまいました。

 

nezumi_flower_road.gif

 

すると今度は、同僚の弟子ねずみのチュー輔が話しかけてきました。チュー輔はチュー太と同期生で、やっぱりもうすぐ独立しようとしています。
「チュー太、さっきの親方の話、すごく勉強になる話だったな」
「あ、聞いてたんだ」
「親方の声はデカイからな。自然に聞こえるさ」
「確かにそうだな。で、チュー輔は、どう思った?」
「だから、勉強になる話だって思ったよ」
「じゃあチュー輔は、誰か好きな相手がいるのか?」
チュー太は、少し驚きました。なぜならば、チュー輔も独身だし、チュー太の知る限り彼女もいないはずだったからです。
「特定の彼女はいないよ」
「じゃあ、誰かに片思いしてるってことか?」
「そうじゃないよ。でも、ちょっと似てるかな」
「え? どういうことだ?」
「簡単なことさ。オレはさ、お前もよく知っていると思うけど、オシャレなお嬢様系ねずみが好きなんだよ。だからオレは、彼女たちのためのチーズ屋をやろうって決めたのさ」
「あー、なるほど。そういう手もあるかも」
「あるんじゃないかな。例えばさ、チーズを売るだけじゃなくてさ、お嬢さま系ねずみが喜びそうなカフェを併設したりして、ついでに前歯とヒゲのお手入れサービスなんかも付けてさ」
「それは、すごいな」
チュー太は素直に感心しました。そんなオシャレなチーズ屋なんて聞いたことがないし、確かに若いメスねずみたちが喜びそうな気がします。でもチュー太には、チュー輔のように、特定の好みのタイプのメスねずみというのがありません。だから、自分にはチュー輔のようなアイデアが浮かぶとは思えませんでした。

 

nezumi_flower_road.gif

 

「チュー太も、自分が好きなねずみたちのための店をやればいいんじゃないの?」
「それがさ、考えてみたんだけど、僕には自分が誰のことが好きなのかが分からないんだよ」
「何言ってるのさ。チュー太が好きなのは、チーズの本当の味が分かるねずみだろう? つまり、チュー太が好きなのは、チュー太みたいなヤツってことさ」
「あ、そうか」
好きな相手は、何もメスねずみじゃなくていいんだ。言われてみれば、当たり前じゃないか。
「そうさ。チュー太は、オレたちチーズ職人の中でも、本当の本当にチーズのことが好きだからな。それだけチーズのことが好きなんだから、チーズのことが好きなねずみのことも好きだろう?」
「言われてみれば、確かにそうだ」
chuta&cheese152_125.jpgチュー太はやっと、自分がどういうお店を始めればいいのかが分かり始めました。でも、これは最初の一歩に過ぎません。チュー太のビジネスは、これから始まるのです。

 

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス


ビジネスというものには、必ずお客さんがいます。そして、ビジネスが成功するためには、お客さんにこちらのことを好きになってもらう必要があります。そのためには、まず、こちらがお客さんのことを好きになる必要があります。
なぜならば、人は自分のことを好きになってくれる人のことを好きになるものだからです。これは、心理学で「返報性の法則」と言います。例えば、誰かとお付き合いしたいと思う時、お付き合いしてくれれば誰でもいいという人は、誰に告白してもフラれます。手当たり次第にたくさんの人に告白したって、お付き合いしてもらえません。

 

ビジネスも、それと同じです。買ってくれれば誰でもいいということでは、誰も買ってくれません。そういう会社のことは誰も好きになりません。そういう会社の商品は、誰も魅力を感じませんから、買ってもらうためには、値引きするしかないでしょう。
値引きしても、たくさん売れるならいいでしょう。しかし、日本は人口が減り始めているのですから、徐々に売れる量は減っていきます。それは、B2Cだけではなく、B2Bであっても、日本の国内でビジネスをしている限り同じことです。これからは値引きしなくても買ってもらえるようにする必要があります。そして、そのためには、こういう人にこそ買ってもらいたいというビジネスをする必要があるのです。そうしなければ、儲けを出すことは難しいでしょう。
なので、新しい事業を始める時、新しい商品を開発する時は、必ず最初に「誰のためのビジネスをするのか?」を考える必要があります。それが、ビジネスで成功するための鉄則です。

 

ただし、特定の誰かのためではなく、社会全体のために働くというのも勿論アリです。社会全体のために役立ちたいと思える人は、是非そうしてください。しかし、その場合は、"誰のために"ということを考える代わりに、"何のために"ということを考える必要があるでしょう。
例えば、社会のみんなの生活を便利にするために、なのか、生活を楽しくするために、なのか、健康にすごせるようにするために、なのかということです。

 

いずれにしても、ビジネスの基本は、"誰に"対して"どんな価値を"提供するのか、ということです。儲かりさえすれば何でもやる、ということではダメなのです。そういうことでは、その時々にやることが変わってしまって、常に後追いになってしまいます。
健全なビジネスを継続的に行うためには、"誰に"対して"どんな価値を"提供するのかということを決めて、それを守り続ける必要があるのです。そうすることで、信用が高まり、お客さんが増えていくのです。信用がなければ、どんなにいいことをやっていても、誰もが怪しむばかりでしょう。

 

第2章 どんなにいいモノでもそれだけじゃ売れない<前編>へ続く 
※2012年3月16日(金)公開!

 

next_story1.JPG次 回 予 告

 チーズの本当の味のわかるねずみに、さてどんなチーズが良いのかをチュー太は考えます。材料費と手間をたっぷりかけて作ったチーズは絶品でした。しかし、また親方から忠告を受けます。果たしてお金と手間をかけた贅沢で高級なチーズは売れるのでしょうか・・・。