TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第2章 どんなにいいモノでもそれだけじゃ売れない<前編>



03.16.12

第2章 どんなにいいモノでもそれだけじゃ売れない<前編>

前回までのお話

チーズ職人として独り立ちするチュー太。どんな味のチーズを作ったらよいか悩んでいました。親方から、好きな人、特定の人のためのチーズを作らないと売れるチーズは作れないことを助言されます。チュー太は学びました。"誰に"対して"どんな価値を"提供するかを決め、それを守り続けなかればならない。それにより信用が高まり、お客様が増えていくのです。 
第1章 誰のために働くの?<前編>はこちら

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2章<前編>

 

チュー太は、チーズ好きのねずみのためのお店を始めることに決めました。そして次に考えたことは、どんなチーズを作るべきかについてです。チーズ好きのねずみをお客さんにするわけですから、本格的なチーズを作らなければなりません。でも、チュー太は腕のいいチーズ職人ですから、本格的なチーズを作ることなんて朝飯前です。
実際、今日は本格的なチーズの試作品を作ってみました。親方のお店で売るために作っているいつものチーズとは、比べ物にならないほどおいしいチーズが出来ました。ただし、材料費も比べ物にならないほど高かったし、手間も比べ物にならないほどかかりました。だから、お客さんに売る時も、いつものチーズとは比べ物にならないほど値段を高くする必要があるでしょう。これでは、親方のお店では、売り物になりません。
でも、お金持ちのねずみが集まるお店なら、値段が高くても売れるかもしれません。チュー太はそう思って、町に出かけてみることにしました。お金持ちが集まるお店では、どのくらいの値段のチーズが売られているのかを調べるためです。

 

nezumi_wave_road.gif町の中心部には、たくさんのチーズ屋があります。チュー太はその中から高級そうなお店を選んで、ショーウィンドウを覗き込んでみました。思ったとおり、かなり高い値段が付いています。それを確かめたチュー太は、他の高級なお店のショーウィンドウも覗いてみました。すると、そのお店も、先ほどのお店と同じくらい高い値段でした。
そのようにして、チュー太は次々と高級なお店の値段を確認しました。その結果、どこのお店もかなり高い値段だということが分かりました。つまり、かなり値段が高くても、買ってくれるお客さんがちゃんといるということです。

 

それを知ったチュー太は、嬉しくなりました。自分がこれからやろうとしている本格的なチーズのお店は、値段が高くても大丈夫だということだからです。そうなると問題は、味です。値段が同じくらい高いんだったら味が良い方が売れるだろうと、チュー太は考えたのです。
そこでチュー太は、一番高級なお店の一番高級なチーズを、ほんの少しだけ買ってみることにしました。何しろ値段が高いので、ほんの少ししか買えなかったのです。でも、大丈夫。チュー太は腕のいいチーズ職人ですから、ほんの少しだけかじれば、ちゃんと味を確かめられます。
食べてみて分かったのは、一番高級なお店の一番高級なチーズよりも、自分が作ったチーズの方がおいしいということでした。チュー太は、有頂天になりました。それは当然でしょう。何しろ、一番高級なお店の一番高級なチーズよりも、自分が作ったチーズの方がおいしいんですから。世界で一番おいしいチーズは、自分が作ったチーズなのですから!
チュー太は興奮して、親方のお店に帰りました。そして、今日の出来事を、興奮して親方に報告しました。

 

「そういうわけなので、僕は世界一高級で世界一おいしいチーズのお店を作ることにします!」
それを聞いた親方は、悲しそうな顔をして、こう言いました。
「チュー太、それはやめておけ。絶対に失敗するぞ」
「え? なんでですか? 僕の作ったチーズは、一番高級なお店の一番高級なチーズよりもおいしいんですよ」
「きっとそうなんだろうな。でも、お前が高級な店を出しても、たぶん失敗するよ」
「でも、値段が同じなら、誰だっておいしい方を買いますよね?」
「そういうねずみも、たまにはいるだろうな」
「たまに? みんな、そうでしょう?」
「じゃあお前は、一番高級な店の一番高級なチーズと同じ値段で、お前の作ったチーズが売ってたら、お前が作ったチーズを買うのか?」
「......買いません。というか、値段が高すぎて買えません」
チュー太は、頭をぶんなぐられた気がしました。味がどんなに良くても、値段が高すぎたら買えません。そんな当たり前のことを、チュー太は忘れていたのです。

 

「お前がお客さんにしたいのは、お金持ちのねずみじゃなくて、チーズの味が分かるねずみなんだろう? チーズの味が分かるねずみは、みんながお金持ちなわけじゃない。だから、高級な店はダメだ。それにだ。高級な店は、今もたくさんある。お前自身が、今日見てきたんだから、それは分かるだろう? そういう店は、もう何年も前から続けてるんだ。そういう店とまともに勝負したって、向こうには勝てないよ。向こうには、長年の間に築いた信用があるんだ。味だけで勝負したって、勝てっこない」
「......そうですね」
「いいか、チュー太。いいモノを作っただけじゃ、商売にはならないんだよ。信用がなけりゃ、どんなにいいモノでも売れない。逆に、信用があれば、さほどいいモノじゃなくても売れる。あるいは、面白い売り方をしていても売れるし、デザインがかっこいいから売れる場合もある。宣伝がうまくて売れる場合もあれば、商品名の良さだけで売れる場合だってある。モノの良さだけじゃなくて、それ以外の要素も重要なんだ」
「はい。分かりました」
「大切なのは、自分のお客さんが、何を求めているかだ。味さえ良ければ、あとはどうでもいいってねずみは、イマドキあんまりいないぞ」
「はい。よく考えてみます」

 

nezumi_wave_road.gif親方からのアドバイスを聞いて、そんなに簡単に商売がうまくいくわけがないと、チュー太は考え直しました。そして、自分はお客さんのことを考えていたつもりになっていたけれど、本当は全然考えていなかったと反省しました。
チュー太のお客さんは、チーズの味が分かるねずみです。そういうねずみは、チーズに何を求めているか。チュー太は、それについて、もっとよく考えてみることにしました。
チーズの味が分かるねずみと言えば、チュー輔が言っていた通り、自分のことです。自分はチーズに何を求めているのだろう? チュー太は一生懸命に考えました。

 

まず、味と香りにコクがあって、値段があんまり高くないこと。そうじゃないチーズは、チュー太は絶対に買いません。それに、天然素材100%なこと。これも、チュー太にとっては、大切な条件です。それから、あんまりカロリーが高くないチーズが、チュー太が理想としているチーズです。でも、そういうチーズは、ほとんど売っていません。大半のチーズは、これらの条件のどれかを満たしていないのです。
そこでチュー太は気づきました。仮に、自分と同じ好みのねずみが他にもたくさんいるなら、そういうチーズを作ればいいんじゃないのか、と。
でも、自分と同じ好みのねずみがどのくらいいるのかは、考えても分かることではありません。だからチュー太は、困ってしまいました。当てずっぽうで自分の好みのチーズを作っても、誰も買ってくれないかもしれないからです。それじゃ、独立しても、すぐにつぶれてしまいます。1年も修行しながら貯めた開業資金が、あっという間にパアになってしまいます。

 

chuta_SOS184_147.jpgチュー太はしばらく、どうしたものかと考えていましたが、いいことを思いつきました。親方のお店のお得意さんに、チーズの味にとてもこだわっているねずみが一匹いることを思い出したのです。チュー太は、そのねずみの意見を聞いてみることにしました。たった一匹かもしれませんが、自分だけで考えているよりははるかにましだと思ったのです。

 

第2章 どんなにいいモノでもそれだけじゃ売れない<後編>へ続く 
※2012年3月20日(火)公開!

 

next_story1.JPG次 回 予 告

ようやく、どのような味のチーズを作るかを導き出したチュー太ですが、本当に売れるのか自信がありません。おチューさんに意見を聞いてみますが、おチューさんは何と言ってくれるでしょうか。チュー太が食べたいチーズをおチューさんも食べたいと言ってくれるでしょうか。次回は2章のまとめ『マーケティング・ワンポイント・アドバイス』があります!