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03.20.12

第2章 どんなにいいモノでもそれだけじゃ売れない<後編>

前回までのお話

チーズ職人として独り立ちするチュー太は、自分と同じようなチーズの味のわかるねずみのためのお店をだすことに決めました。手間と材料費のかかる高級なチーズを作って満足するチュー太でしたが、親方に指摘されます。チーズの味がわかるねずみは高級なチーズを求めているのか・・・。いいモノ=売れるとは限らないのです。再度頭を悩ませ、お客様が本当に求めているものを考えました。結果、値段があまり高くなく、天然素材100%でカロリーがあまり高くないチーズはどうだろう。しかし本当に売れるのか自信がありません。そこでチュー太と同様にチーズの味にこだわるおチューさんに意見を聞いてみることにしました。 第1章をご覧になる方はこちらへ

 

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第2章<後編>

 

そのねずみは、おチューさんという妙齢のメスねずみです。親方のお店のお客さんにしては珍しく、ほっそりとした体型で、いつも一匹で来ます。だからきっと、子供はいないのでしょう。もしかしたら、まだ独身なのかもしれません。
チュー太は、おチューさんとは、一度も話をしたことがありません。だから、おチューさんについてのことは、ほとんど何も知りません。名前だって、何かの時に親方から教えてもらっただけなのです。
でも、チュー太は知ってしました。おチューさんが、チーズの味にこだわりを持っていることを。親方のお店の商品の中には、一つだけ特別に天然材料100%で作っている、こだわりのチーズがあるのです。ちょっと値段が高いので、普通のお客さんはたまにしか買いません。でも、おチューさんだけは、いつもそのチーズを買っていくのです。

 

チュー太は、おチューさんが買い物に来るのを、今か今かと待ちました。そういう時に限って、待っている相手はなかなか来ないものです。でも、数日後に、おチューさんはやってきました。お得意さんなのだから、そのうちに来るのが当たり前なのですが、おチューさんの姿を見ただけで、チュー太は天の助けとばかりに喜びました。そして、普段は引っ込み思案のチュー太なのですが、この時ばかりはすぐに話しかけました。 

nezumi_yellow_flower.gif「こんにちは。いつもお買い上げありがとうございます」
「あら、職人さんにお礼を言われるのは、珍しいわねぇ」
「実は、ご意見を伺いたいことがありまして」
「何かしら。私が答えられるようなこと?」
「ええ。実は今、新商品の開発をしておりまして、それについてのご意見をぜひ伺いたいんです」
「ふうん」
おチューは気の無い返事をしましたが、顔を見ると興味津々です。それを見たチュー太は、やっぱりおチューさんは相当なチーズ好きだと確信しました。そして、自分が考えている理想のチーズについて、一生懸命に説明しました。

 

チュー太の説明を聞いたおチューさんは、こう言いました。
「へぇ~、そんなチーズがあったら、私ならすぐに飛びついちゃうわね。もしかしたら、他のチーズは買わなくなっちゃうかもしれないわ」
それを聞いたチュー太は、とても嬉しくなりました。
「ありがとうございます!」
「お礼なんかいいから、そのチーズ、早く作ってくれる? いつ出来る予定なの?」
「実は、まだ作るかどうか、分からないんです」
「え? どうして?」
「どのくらい売れるのかが分からないんで、どうしたものかと悩んでるんです」

 

「そうなの。でも、そこそこ売れるんじゃないかな。私みたいなねずみって、結構多いと思うのよね」
「それは、どういうことですか?」
「ほら、最近は、見た目の良さよりも、アンチエイジングに興味があるメスねずみが増えているでしょう?」
「そうらしいですね」
そう返事はしたものの、チュー太には、それがチーズと何の関係があるのか、さっぱり分かりませんでした。でも、その答えを、おチューさんがすぐに教えてくれました。
「でね、若さを維持するためには、天然素材100%で低カロリーのチーズを食べるのがいいらしいのよ。だから、そういうチーズが出来たら、しかも味もおいしくてお値段も高くなければ、私みたいなメスねずみが喜んで買うんじゃないかしら」
「へぇ~、そうなんですか! 全然知りませんでした」

 

nezumi_yellow_flower.gifチュー太は心から驚きました。チュー太自身は、あくまでも味にこだわって、そういうチーズが好きなのです。でも、そうじゃない理由で、同じチーズを好んでいるねずみがたくさんいたのです。そんなことは、チュー太は想像したことすらありませんでした。
「チーズ屋さんなのに、そんなことも知らなかったんだ。でも、そうかもね。最近のメスねずみにとっては常識でも、オスねずみにとっては関係ないことだもんね」
「勉強不足で、すみません。でも、そういうメスねずみって、本当にたくさんいるんですか? いえ、疑ってるわけじゃないんですけど、実感がないもんですから」
「本当にたくさんいるわよ。あ、でも、そう言っているだけじゃ、そのチーズは作ってもらえないのか。どのくらい売れそうなのかが分かんないと、作んないんだもんね」
「まあ、そういうことになります。すみません。本当は、僕も作りたいんですけど......」

 

chuta_jump.jpg「じゃあ、こうしましょうよ。私が、私の友達に聞いてあげる。私の友達には、私と同じようなメスねずみが多いから。そうすれば、何匹中何匹くらいのねずみが、そのチーズを買ってくれそうかが分かるじゃない?」
「え? そんなことをしてくれるんですか?」
「だって私、そのチーズを作って欲しいんだもん。協力するわ」
「あ、ありがとうございます!」
チュー太は、あまりにも思いがけない申し出に、おチューさんに何度も何度も頭を下げました。

 

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

 

自分が好きな人をお客さんとして設定したとしても、それは単にこちらの勝手で設定したに過ぎません。そのお客さんを狙っているのは、大抵の場合、自分だけはないでしょう。それどころか、自分が設定したお客さんは、たくさんの競合が狙っているモテモテのお客さんかもしれません。今は人口が減り始めましたから、一人のお客さんをたくさんの企業が狙っている可能性が高いでしょう。
だから必ず、競合についてのリサーチをする必要があります。そして、強力な競合がいると分かったら、そのお客さんを狙うのは諦めた方がいいかもしれません。諦めないとしたら、かなり入念な戦略を練る必要があるでしょう。モテモテの人に告白するのに、何の準備もせずにアタックしても、失敗する可能性が高いのと同じことです。それは、あなたがどんなにいい人であっても、そうなのです。つまり、どんなにいい商品であっても、そうだということです。

 

しかも、競合というのは、自分と同じビジネスをしている相手だけではありません。例えば、ある人が10万円持っていて、その10万円で旅行をしようかパソコンを買おうか迷っていたとしたら、旅行とパソコンが競合になります。洋服を買おうか英会話を習おうかと迷っていたら、洋服と英会話が競合になります。つまり、あらゆる業界の企業が競合になる可能性があるのです。だから、自分が設定したお客さんに関係する、あらゆる企業のことを知っておく必要があります。

 

また、戦略を練るためには、競合のことだけではなく、お客さん自身のことも当然詳しく知る必要があります。お客さんの好みがどういうものか、なぜそういう好みなのか、今はどういう商品を買っているのか、その商品に不満は無いか、どういう場所でその商品を買っているのか、どのような方法で情報収集しているのか、そういうことを全て把握しなければ、きちんとした戦略を練ることはできません。

 

予算がないからといって、きちんとリサーチせずに想像に頼って戦略を立てると、失敗するリスクが高くなります。私たちは神様じゃありませんから、他人の心の中のことを想像しても、外れる可能性の方が高いに決まっています。だから、リサーチをせずに想像に頼ったビジネスをしていると、リサーチ代よりも高い金額の損をすることになる可能性が高いでしょう。

 

第3章 ちょっとしかいない客を狙え<前編>へ続く ※2012年3月23日(金)公開!

 

next_story1.JPG次 回 予 告

おチューさんはチュー太が考えたチーズにとても良い反応を示してくれましたが、他のメスねずみたちはどんな感想を持つでしょうか。次回はおチューさんが100匹のメスねずみに聞いた結果がわかります。まだまだチュー太の悩みは尽きません。