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03.23.12

第3章 ちょっとしかいない客を狙え<前編>

前回までのお話

チーズ職人として独立を決めたチュー太は親方から特定の相手のためにチーズ作りをしないと売れるチーズ屋さんにはならないことを教わり、チーズの味にこだわりを持つねずみのために天然素材100%で、カロリーを抑えたおいしいチーズを作ろうと思いますが、売れる自信がありません。そこでチーズにこだわりを持つメスねずみのおチューさんに意見を求めました。そこでメスねずみたちがアンチエイジングに興味を持っていること、そういうねずみたちに売れるのではないかという話を聞きます。そしておチューさんはメスねずみたちに聞いてくれると約束してくれました。

第1章からご覧になる方はこちら

 

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第3章<前編>

 

チュー太がおチューさんと話をして1週間くらい経った頃、チュー太が店の奥でチーズの仕込みをしていると、親方が手紙を持ってきてくれました。
「おチューさんが、これをお前に渡してくれってさ。ひょっとして、ラブレターか?」
親方はそう言って笑いながら手紙を渡してくれましたが、もちろんラブレターなんかじゃありません。それはきっと、おチューさんが聞き取り調査した結果を知らせるための手紙でしょう。チュー太はそう思って、急いで封筒を開けました。すると、案の定、やっぱりそれは調査の結果についての手紙でした。
チュー太はその場ですぐに、目を皿のようにして、おチューさんがまとめてくれた手紙を読みました。

 

nezumi_yellow_flower.gifチュー太さまへ

 

先日約束した調査が済んだので、結果をお伝えします。私は毛繕い屋をしているので、毎日たくさんのメスねずみのお客さんと話をします。この1週間で、若い娘ねずみからおばあちゃんねずみまで、100匹のメスねずみの意見を聞くことが出来ました。

 

まず、どの年代のメスねずみも、例のチーズには興味を持ちます。だって、若さを維持する効果があるんですもの。当たり前ですよね。メスねずみは何歳になっても、若く見られたいものですから。
でも、だからと言って、みんなが買うわけではありません。みんな、他のことにもお金を使わなきゃいけないので、チーズにばっかりお金は使えません。娘ねずみはオシャレをするのに、お母さんねずみは子ねずみの養育に、おばあちゃんねずみは病気の治療に、お金がかかります。だからチーズは、あんまり高くないものを買っているねずみが多いみたいです。
それに、チーズは長持ちしないでしょう? 袋から出さなければ長持ちするけど、一度袋から出しちゃうと、3日くらいで固くなっちゃう。だから、大抵の場合は、最後に残った分が固くなって、捨てることになります。みんなそうだから、あんまり高いチーズは、もったいないから買わないって言っていました。

 

だから、天然素材100%で低カロリーなだけじゃ、売れないと思います。平均的な値段じゃないと、みんな買いません。味の良さよりも、みんな値段を気にしていました。みんな、おいしいにこしたことはないんでしょうけど、ねずみはみんなチーズが好きだから、安物のチーズの味でも充分おいしいと感じるんでしょうね。
だから、天然素材100%で低カロリーで値段が高くないチーズなら、味が大したことなくても売れる可能性が高いってことになります。実際、そういうチーズを買っているメスねずみがたくさんいましたし、そういうチーズってあっちこっちで売っています。今は、そういうチーズが売れ筋なんでしょうね。

 

私が聞いた範囲で分かったことは、以上です。私が作って欲しいチーズは、天然素材100%で低カロリーで味がおいしいチーズです。でも、味にこだわっているメスねずみは少ないみたいなので、そういうチーズを作っても売れませんね。だから、残念ですが、諦めます。

 

おチューより

 

nezumi_yellow_flower.gifおチューさんからの手紙を読んで、チュー太は頭を抱えてしまいました。チュー太が作ろうとしていたチーズは、まさにおチューさんが作って欲しいと思っていたチーズなのです。つまり、天然素材100%で低カロリーで味がおいしいチーズです。でも、それじゃ値段が高くなってしまい、売れそうにないことが分かりました。味で勝負しようとしていたチュー太にとって、これは致命的なことです。

 

おチューさんは、味はさておき、天然素材100%で低カロリーで安いチーズが売れ筋だと書いていました。今はそういうチーズが売れ筋だから、チュー太もそういうチーズを作ったらどうかと言いたいのでしょう。でも、そういうチーズは、既にたくさん売られています。だから、同じようなチーズを作っても、あんまり売れないはずです。それは、高級なチーズの時と、同じ話です。
要するに、これまでにない独自の特徴のあるチーズを作らないと売れないということです。チュー太は、その特徴として、味にこだわろうと思っていました。でも、それじゃ値段が高くなってしまって、売れそうにありません。だから、他の特徴を考えないと、売れるチーズは作れません。

 

おチューさんの手紙によると、多くのメスねずみは、味よりも値段を重視しているとのことでした。だから、圧倒的に安いチーズを作れば売れるでしょう。でも、そうするためには、安い素材を使う必要があるので、どうしても味が悪くなってしまいます。それでも売れるかもしれませんが、チュー太はそんなチーズを作るために1年も修行してきたわけではありません。だから、売れるとしても、チュー太はそんなチーズを作る気にはなれません。
それに、おいしくないチーズなんて、やっぱりそんなに売れないとチュー太には思えます。仮に売れたとしても、値段が安いのですから、あんまり儲かりません。安い値段で儲かるためには、ものすごくたくさん売る必要があります。親方のお店みたいに、たくさんの弟子ねずみがいて、たくさんのチーズを作って、たくさんのお客さんに買ってもらう必要があるのです。でもチュー太は、たった一匹でお店を出そうとしています。薄利多売は、不可能です。

 

一匹だけでお店を出す自信を失ったチュー太は、チュー輔と一緒にお店を始めようかと思い始めました。以前チュー輔が話していたオシャレなお店なら、特徴があって繁盛しそうです。そこでチュー太も働かせてもらえれば、もっと繁盛するような気がします。だからチュー太は、それをチュー輔に提案してみました。
でも、その提案を聞いたチュー輔は、困った顔をして言いました。

 

「チュー太、申し訳ないんだけど、オレがやろうとしている店では、そんなにおいしいチーズを出すつもりはないんだ。だから、チュー太にオレの店に来てもらっても、チュー太が作りたいおいしいチーズは作れないんだよ」
「でもさ、チュー輔の店でおいしいチーズを売ったら、もっと繁盛するなじゃないか?」
「そうかもしれないな。でも、オレの考えは違う。オレの店では、チーズの味よりも、オシャレな気分を楽しめることが重要なのさ。だから、それ以外の部分には出来るだけお金をかけないで、料金を安くするつもりなんだ。お嬢様系ねずみは、本当のお嬢様じゃないから、あんまりお金を持っていない。だから、料金を安くしなきゃ、来てくれないさ」
chuta_SOS184_147.jpg「それはつまり、チュー輔の店では、安物のチーズを売るってこと?」
「そういう言い方をされると身も蓋もないけど、まあ、そういうことだな」
「そうか。分かった。無理を言ってゴメン」
チュー太は、簡単にチュー輔を頼ろうとしていた自分が恥ずかしくなりました。


第3章 ちょっとしかいない客を狙え<後編>へ続く ※2012年3月27日(火)公開!


next_story1.JPG次 回 予 告

味の良さよりも値段を重視しているメスねずみたち。それではチュー太が作ろうとしているおいしくて、そこそこ値段のするチーズでは、お客さんは集まってもらえそうにありません。しかしチュー輔が、少しのお客さんを相手にする商売方法やメリットについてヒントをくれます。次回はマーケティングのワンポイントアドバイス付きです!