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03.30.12

第4章 誰にとってのどんな魅力?<前編>

前回までのお話
チーズ職人として独立するチュー太。チーズの味がわかるねずみのために、カロリーが高くなく、天然素材100%のチーズを作ろうと考えます。チーズにこだわりを持つメスねずみのおチューさんに、メスねずみたちがそういうチーズを買ってくれるのかを聞いてもらったところ、味よりも値段を重視する声が多いという結果でした。しかし少数でもチュー太が売りたいチーズを買ってくれるお客さんはいます。少ないお客さんだからこそできるサービスがあることを同僚のチュー太から助言を受けました。客が少なくても、やはりチーズの味のわかるお客さんのためにお店を出すことを決意しました。
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第4章<前編>

チュー太は、チーズの味の分かるねずみのことを、もっともっとよく考えることにしました。でも、チュー太が知っている、チーズの味の分かるねずみは、おチューさんしかいません。だから、自動的におチューさんのことを考えることになりました。
そうは言っても、チュー太はおチューさんのことを、そんなに詳しく知りません。だからチュー太は、おチューさんからの手紙を、もう一度よーく読んでみることにしました。その手紙から、おチューさんがどんなチーズを欲しがっているのかを、読み取ろうとしたのです。
チュー太は、おチューさんからの手紙を、何度も何度も読みました。おチューさんが欲しがっているのは、天然素材100%で低カロリーで、味もおいしいチーズです。それは、この前から分かっています。問題は、それ以外の特徴をどうするべきかということです。

nezumi_heart.gif値段は、ちょっとくらい高くても大丈夫そうです。おチューさんは、親方のお店でも、ちょっと高いチーズを買っていきますから、それは証明済みです。でも、だからと言って、すごく高いチーズは買っていないようです。あくまでも、ちょっとだけ高い値段までが、おチューさんに買ってもらえる範囲です。
おチューさんが高いチーズを買わない理由は、もったいないからということでした。それは、チーズは袋から出すと3日くらいで食べられなくなって、捨てることになってしまうからです。そして、それはおチューさんだけじゃなくて、他のねずみたちも同じようです。
チュー太はチーズのプロなので、固くなったチーズを工夫して食べる方法を知っています。でも、素人のねずみたちは、そういう食べ方を知らないようです。だから、固くなったチーズは、捨ててしまうのでしょう。これはチュー太にとっては、意外な事実でした。なぜならば、チュー太たちチーズ職人にとっては、固くなったチーズの食べ方など、常識だからです。

そこでチュー太は、固くなったチーズの食べ方をみんなに教えればいいんじゃないかと考えました。でも、その考えは、あんまりうまく行きそうにないと、すぐに気づきました。固くなったチーズの食べ方は、ちょっと面倒くさいのです。チュー太は、弟子入りしたばかりの頃、親方から教えてもらったことを思い出しました。
「お客さんはみんな、面倒くさいことが嫌いだ。そもそも、手間を省くために、お金を払ってチーズを買うんだ。そうじゃなけりゃ、自分でチーズを作るよ」
本当においしいチーズを食べようと思ったら、3種類以上のチーズを練り合わせて食べるべきなのです。だから、弟子入りしたばかりの頃、それを知ったチュー太は、お客さんにもそれを教えてあげましょうと、親方に提案したのです。その時に親方から言われたのが、先ほどの言葉です。
その言葉から考えると、固くなったチーズの食べ方を教えてあげても、喜ぶねずみはあんまりいないということになります。固くなったチーズは、どうせ小さな欠片でしょうから、わざわざ手間をかけて食べるよりも、新しいチーズを買った方が良いのでしょう。チーズの味が分かるねずみだって、そう思うに違いありません。
それに、おチューさんだって、きっとそうでしょう。おチューさんの手紙によれば、おチューさんは、仕事をしています。だからきっと、忙しいに決まっています。そんなおチューさんが、小さな欠片の固いチーズのために、わざわざ手間はかけないでしょう。いくらチーズが好きでも、それとこれとは話が別です。

nezumi_heart.gifチュー太はそう思って、固くなったチーズの食べ方を教えることは、諦めることにしました。でも、他にいい方法が浮かびません。だから、どうしても固くなったチーズのことばかり考えてしまい、堂々巡りになってしまいます。チュー太にとっては、固くなったチーズが、重要なヒントに思えるのです。
「何かいい方法がありそうなんだけど......」
来る日も来る日も、チュー太は働きながら、固くなったチーズのことばかり考えていました。最初のうちは、何日経っても固くならないチーズは作れないだろうかと考えていました。そして実際に、そういうチーズを作ろうとチャレンジしてみました。でも、固くならないチーズは、どうしても作れそうにありません。
それでも、チュー太は諦めませんでした。
「もっと他に、いい方法があるはずだ」
そう思って、固くなったチーズのことを考え続けました。

そして、ある日、簡単なことに気づきました。それは、チーズが余らなければ、固くなることもないということです。1日で食べきってしまう量しか買わなければ、そもそも固くなることはないのです。
でも、1日で食べきってしまう量しか売らないということは、一匹当たりの売上が減ることになります。それでは、薄利多売をするしかなくなってしまいます。それに、お客さんにとっても、毎日チーズを買いに行かきゃならないので、面倒です。つまり、1日分だけ売るという作戦は、お店にとっては儲からないし、お客さんにとっては面倒くさいので、二重にダメだということになります。
他のねずみなら、ここで諦めてしまうことでしょう。でも、チュー太は諦めませんでした。チュー太は、1日分だけ売ることにこだわり続けました。なぜならば、チーズが固くならないためには、それしかないからです。

そして遂に、チュー太は画期的なことを考え付いたのです。チーズを1日分の量に切り分けて、それぞれごとに袋詰めして、それを3日分まとめて1つの商品にすればいいのです。そうすれば、毎日新鮮なチーズが食べられます。残しておいて、固くなってしまうことはありません。それに、お客さんも毎日チーズを買いに行かなくて済みます。
さらに言えば、毎日袋から出すのですから、袋から出さない分は、かなり長期間保存できます。だから、3日分で1つの商品と言わず、2週間分くらいまとめて1つの商品にすることだって出来ます。そうすれば、お客さんはますます買い物の手間が省けます。おチューさんのように忙しいねずみにとっては、特に嬉しいに違いありません。
それに、一匹のお客さんがまとめ買いするわけですから、一匹当たりの売上が増えます。これなら、1日当たりの来店客が少なくても、儲かります。しかも、1日当たりの来店客が少ないのですから、それぞれのお客さんに丁寧に対応することができるでしょう。

nezumi_heart.gifこのアイデアを思いついた時、チュー太は我ながらいい考えだと思って、小躍りして喜びました。でも、このアイデアには1つだけ弱点があることに、すぐに気づきました。それは、値段です。1日分の量ごとに袋詰めするわけですから、それだけ袋代が増えますし、手間もかかります。だから、少々高めになってしまいます。そもそも味にこだわるのですから、最初から少し高めの値段になるのです。だから、高級とまではいかないとしても、かなり高い値段になってしまうでしょう。

そこでチュー太は、3種類の試作品を作ってみることにしました。1つは、味がすごく良くて、かなり値段が高いチーズ。そして、味がまあまあ良くて、ちょっと値段が高いチーズ。もう1つは、味はあんまりおいしくないけど、値段が手頃なチーズです。味や値段は違いますが、どれも天然素材100%で低カロリーな点は一緒です。これらのチーズを、親方のお店で試験的に売ってもらうことにしたのです。
その結果、一番たくさん売れたのは、味はあんまりおいしくないけど、値段が手頃なチーズでした。でも、チュー太は、そのチーズを売ろうとは思いませんでした。なぜならば、おチューさんが喜んで買ってくれたのは、他のチーズだったからです。おチューさんが買ってくれたのは、味がまあまあ良くて、ちょっと値段が高いチーズだったのです。
だからチュー太は、そのチーズを売りたいと思いました。でも、そのチーズは、あんまり売れなかったのです。そのためチュー太は、なかなか踏ん切りが付きませんでした。何と言っても、チュー太は独立して自分のお店を始めようとしているのです。失敗したら、破産してしまいます。いくらおチューさんが喜んでくれても、売れない商品を売るわけにはいきません。

ところが、そんなチュー太に踏ん切りを付けさせることが起こりました。その発端は、やっぱりおチューさんです。おチューさんは、自分が買ったチュー太のチーズを、仲間のメスねずみたちに配っていたのです。彼女たちは、みんなおチューさんと同じくらいの年頃で、しかもみんな独身です。つまり、普段は親方のお店には来ないタイプのねずみたちです。そういうメスねずみたちが、おチューさんからもらったチーズを食べて、親方のお店に買い物に来たのです。
彼女たちが買って行ったのは、もちろんおチューさんが買ったものと同じチーズです。それを見たチュー太は、そのチーズで独立することを決心しました。

chuta_jump.jpgいよいよ独立することを決めたチュー太は、それを親方に報告しました。親方は、その報告を、本当に嬉しそうな顔で聞きました。チュー太は、そんな親方に対して、これまで指導してくれたことについて、心からお礼を言いました。それから、弟子ねずみ仲間たちにも、お礼を言いました。これまで一緒に楽しく働けたことについて、お礼を言いたかったのです。そしてもちろん、チュー輔に対しては、特別にたくさんお礼を言いました。チュー輔も、もうすぐ独立します。だから、お互いに「がんばろな」と励まし合いました。

第4章 誰にとってのどんな魅力?<後編>へ続く ※2012年4月3日(火)公開!

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ようやく「誰のためにどんな価値を」持つチーズを作るのかを決めたチュー太。いよいよ具体的に出店場所やお店の名前、商品の名前を考えます。そこでまたおチューさんのもとを訪れます。