TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第5章 売上と利益の関係を考えよう<後編>



04.10.12

第5章 売上と利益の関係を考えよう<後編>

前回までのお話
独り立ちをし、店舗を構えようとするチュー太はチーズの味がわかるねずみのために、カロリーが高くなく、おいしいチーズを作ることに決めます。さらにそのチーズは開封してから3日経っても固くならないよう、1日分ごとに袋詰めにして販売します。商品名や店舗名は商品の特徴がわかり、競合の商品との差別化ができるようにしました。ようやく開店となり、お客さんも増え、順調に売上を伸ばすことができました。同じ頃に独立したチュー輔もやはりお店を開店させ、大人気のお店になっていました。
第1章からご覧になる方はこちら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第5章<後編>

さらに順調に売上を伸ばしていたのが、チュー輔のお店です。チュー輔のお店は、チュー輔自身が考えていたよりも、はるかに娘ねずみの心を捉えました。チュー輔のお店は、オープンしてから数日後には、たくさんの娘ねずみたちが押し寄せるようになっていたのです。
なので、チュー輔一匹では、とてもじゃありませんが、全てのお客さんに対応することができません。そのためチュー輔は、すぐに数匹のねずみたちを従業員として雇うことにしました。

でも、じきにお店の広さが足りなくなっていきました。お客さんが増えすぎて、お店に入りきれなくなってきたのです。だからチュー輔は、もっと広いお店に引っ越すことにしました。そして、それと同時に、従業員も増やしました。新しいお店は、30匹以上のねずみが働く大所帯です。もはや、親方のお店と同じくらいの大きさです。

でも、チュー輔のお店と親方のお店は、全く違う点があります。それは、従業員の中身です。親方のお店の従業員のほとんどは、将来独立することを目指してがんばっているチーズ職人たちです。一方、チュー輔のお店の従業員たちは、大半がアルバイトです。だから、親方のお店よりチュー輔のお店の方が、ねずみ件費がかかりません。
nezumi_flower_road.gif
これは、親方のお店よりもチュー輔のお店の方が、固定費が低いということです。固定費というのは、売上が増えようが減ろうが、一定水準発生する原価のことです。ですので、固定費が低ければ、売上がさほど高くなくても利益が出やすくなるということです。
それに加えて、チュー輔のお店では、変動費も低くなっています。変動費というのは、売上に比例して、増えたり減ったりする原価のことです。変動費の代表は、材料費です。チュー輔のお店で売っているチーズは、さほど品質にこだわっているわけではないので、材料費が安く済んでいます。つまり、変動費が安いのです。

利益というのは、売上から固定費と変動費を引いたものです。いくら売上が高くても、それ以上に固定費や変動費が高ければ、赤字になってしまいます。例えば、給料の高い社員がたくさんいれば固定費が高くなりますし、材料の管理がずさんで無駄がたくさん出ていれば変動費が高くなります。そういうことでは、いくら一生懸命に売上を増やしても、なかなか利益は出ません。
チュー輔の店では、固定費と変動費の両方が低いので、とても利益率が高いということです。つまり、チュー輔のお店は、売上が低くても利益が出やすい構造になっているのです。

しかも、チュー輔のお店は、お客さんが入りきれないほど人気があります。だから、最初から、かなり利益が出ていました。
だから、そのままでも良かったのですが、チュー輔は途中から料金を値上げすることにしました。それは、忙しく働いてくれている従業員たちの時給を、少しでも増やしてあげたいと思ったからです。そうすると、固定費が増えることになりますので、その分の利益を新たに確保する必要があります。値上げしたのは、そのためです。

ただし、値上げしたせいで、お客さんが大幅に減ってしまえば、売上が減って利益も減ってしまいます。逆に、値下げして、お客さんが大幅に増えれば、むしろ売上も利益も増える可能性があります。だから、値上げするか値下げするかは、とても難しい判断になります。
この判断を決める基準は、どれだけ人気があるのかということです。欲しがる人が多ければ、値上げしても良いでしょう。逆に、欲しがる人があまりいなければ、値下げするしかありません。
要するに、需要と供給のバランスです。需要が供給を上回れば、不足感が強まりますので、値上げの圧力が高まります。逆に、需要が供給を下回れば、余剰が出ますから、値下げの圧力が高まるのです。

チュー輔のお店の場合、明らかに需要が供給を上回った状態にありました。だからこそ、チュー輔は値上げすることに決めたのです。そして、チュー輔の狙い通り、お客さんの数は、ほとんど減りませんでした。
そのため、売上が増えました。そして、当初の予定通り、従業員たちの時給を値上げしましたので、固定費も増えました。ただし、売上の増加率の方が、固定費の増加率を上回っていたので、利益も増えることになりました。

チュー輔は、増えた分の利益を使って、またもやお店を引っ越すことにしました。今度は、より広い場所に引っ越すのではなく、より良い場所に引っ越すのです。今回チュー輔が選んだ場所は、ねずみの国一番の繁華街の一等地です。
当然、家賃が飛躍的に高くなりました。つまり、またしても固定費が増えたということです。だから、売上が以前と同じであれば、赤字になることは間違いなしです。でも、一等地に引っ越したおかげで、お客さんの数が増えました。そのため、家賃が高くなったせいで固定費が増えた分を、充分に埋め合わせることができるだけ、売上が増えたのです。

そうして、チュー輔のお店は、売上も固定費も増えました。ただし、その比率は変わっていません。つまり、利益率は、以前と同じままだということです。
利益率が同じであれば、売上に比例して、利益も大きくなります。だから、チュー輔のお店の利益は、大幅に増えました。
そこでチュー輔は考えました。お金は、持っているだけでは何の役にも立ちません。お金は、使うためにあるのです。チュー輔は前々から、単にお金を持っているだけで威張っているねずみのことが大嫌いでした。だから自分は、そうなりたくなかったのです。
nezumi_flower_road.gif
チュー輔は、儲けたお金で、事業をさらに拡大することにしました。お店をたくさん作れば、もっとたくさんの娘ねずみたちに楽しさを提供することができるでしょう。チュー輔は、自分がお金持ちになるためではなく、みんなに喜んでもらいたいから、事業を大幅に拡大することにしたのです。

チュー輔は、あちこちに何店舗も同時に出店して、あちこちにポスターをたくさん貼り出しました。そのポスターには、若手の人気女優ねずみが何匹も起用されています。そんな広告は、これまで誰も見たことがありません。だから、チュー輔のお店は、ものすごく話題になりましたし、これまでの何十倍ものお客さんが殺到しました。
だから当然、今までの何十倍も儲かります。チュー輔は、その儲けを使って、さらにたくさんの店舗を出店し、さらにたくさんのポスターを貼り出すことにしました。その結果、さらにお客さんが増えました。

店舗を増やしたということは、その分だけ家賃が増えます。しかも、店舗を増やした分、従業員も増えますから、ねずみ件費も増えます。そして、家賃もねずみ件費も、固定費です。だから、チュー輔のお店の固定費は、飛躍的に大きくなったということです。
そして、チュー輔のお店は、広告を始めました。つまり、広告費が発生するようになったということです。しかも、人気女優ねずみを何匹も起用したのですから、かなりの金額の広告費です。そして、広告費は、変動費です。つまり、チュー輔のお店は、固定費も変動費も、飛躍的に増えたのです。
そのため、利益率が低下しました。でも、売上も飛躍的に増えたので、きちんと利益が出ています。それどころか、金額的には、以前よりも利益は増えています。ただ、利益率が低下したというだけです。少なくとも、この時のチュー輔は、そう思っていました。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

固定費がゼロでない限り、売上が2倍になったら、利益も2倍になるわけではありません。固定費が変わらない状態で、売上が2倍になれば、利益は2倍以上になります。しかし、売上を2倍にするために、固定費が2倍以上増えてしまったら、利益は2倍にはなりません。
固定費というのは、人件費や設備費、家賃など、売上の変動に関係なく、一定額発生するコストのことです。逆に、売上に比例するコストは、変動費です。例えば、原材料費や燃料費、広告費などは、それに該当します。

また、売上から変動費を引いたものを、限界利益と言います。そして、限界利益から固定費を引いたものが、利益となります。
だから、限界利益よりも固定費が増えれば、赤字になります。したがって、利益を高めるための方法は、2つです。一つは限界利益を高めること、もう一つは固定費を小さくすることです。


限界利益と固定費が同じ場合は、収支がトントンという状態です。その時の売上額のことを、損益分岐点と言います。この損益分岐点を低くすることは、経営上の重要なミッションとなります。
損益分岐点が低いということは、低い売上でも利益が出るということです。そうなるためには、固定費をできるだけ小さくする必要があります。
固定費が小さければ、限界利益が小さくても、利益が出ます。固定費が大きければ、限界利益も大きくしなければなりません。

つまり、同じ売上であっても、固定費が小さければ、変動費をたくさん使うことができるということです。だから、より良い原材料を使ったり、広告をたくさんしたりできるわけです。そうすれば、より良い商品を作れるでしょうし、お客さんもたくさん来るでしょう。ですので、儲かる可能性が高まります。
このように、変動費は節約すればいいとは限りません。無駄遣いは論外ですが、ある程度以上の変動費は使う必要があります。

同様に、固定費も闇雲に節約すればいいわけではありません。あまりにも人件費を減らせば、優秀な人材を獲得することはできませんし、やる気を出して働いてくれないでしょう。それに、機械などの設備も、できるだけ新しいものを導入した方がいいでしょう
chuta&flower190_144.jpg
要するに、経営においては、固定費と変動費をどのように配分するのかが、非常に重要になるということです。これは経営の基本であり、これを考えなければ、経営は成り立ちません。

第6章 お客さんは急に増やすな<前編>へ続く 
※2012年4月13日(金)公開!

next_story1.JPG次 回 予 告
チュー輔のお店は順調に売上を伸ばし、従業員の給与を上げ、店舗も増やしました。それでも利益が出るほど人気のお店です。しかし急に店舗数を増やしたチュー太のお店では気づかないうちにある問題を抱えてしまいました。

チュー太がこれまでに学んだこと
第1章 新しい事業や商品を作るときには、最初に「誰のためのビジネス」をするのかを考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをリサーチしないとビジネスの戦略を練ることはできない。
第3章 モノが余る現代では、ターゲットを絞り手厚いサービスで顧客満足度を上げることが大切。
第4章 良い商品でも特徴が伝わらなければ売れない。ターゲットがその商品を使うと「こんな嬉しいことがある」「他商品とココが違う」というところが伝わるようする。