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04.17.12

第6章 お客さんは急に増やすな<後編>

前回までのお話
ねずみのチュー太は一人前のチーズ職人としてお店を持ちました。ターゲットになるお客さんは少ないですが、その分、手厚いサービスを提供できます。最初は少なかったお客さんもクチコミが広がり、徐々に増えていきました。一方、同じ頃独立したチュー輔のお店は大人気のお店となり店舗数を増やしました。何の問題もないように見えたチュー輔のお店では実は急激に店舗数を増やしたために、あることが起きていました。今回その問題に気づき、チュー輔は愕然としある決断をします。
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第6章<後編>

chuta_SOS184_147.jpgチュー輔は気づきました。お店を始めた頃と今とでは、お客さんの質がまるで違っていたのです。最初の頃は、オシャレに敏感なお客さんばかりだったのに、今はあんまりオシャレじゃないお客さんが多くなっていたのです。

つまり、チュー輔のお店は、いつの間にか、オシャレじゃないねずみしか来ないお店になっていたわけです。オシャレじゃないねずみしか来ないお店には、オシャレに敏感なねずみは来ません。しかも、オシャレじゃないねずみしか来ないお店には、オシャレじゃないねずみだって来ないようになります。これじゃ、いくらポスターを増やしても、お客さんが増えるわけがありません。

それに気づいたチュー輔は、愕然としました。でも、以前と今とで違っているのは、お客さんの質だけではなかったのです。もう一つ、大きな違いが発生していました。チュー輔は、あちこちの自分のお店を回り、よくよく観察することで、その違いに気づきました。

それは、接客の質です。みんな真面目に、決められた通りの仕事をしています。なので、見た目だけでは、何も問題ありません。でも、お客さんの立場になって考えてみると、一つひとつの対応や言葉に、心がこもっていないのです。決められたことを決められた通りにやっているだけです。

心配になったチュー輔は、何人ものお客さんに意見を聞いてみました。でも、お客さんとしては、特に不快感があるわけではありませんでした。それを聞いたチュー輔は、ほっと一安心しました。でも、もっとお客さんの意見をよく聞いてみると、とても安心できる状態ではないと気づき、真っ青になりました。お客さんには、不快感もなかったのですが、満足感もなかったのです。

nezumi_green_road.gifチュー輔は必死になって、そうなってしまった原因について考えました。すると、すぐにその原因について、思い当たることが2つありました。一つは、あまりにも急激に従業員を増やしたせいで、従業員の教育がおろそかになっていたことです。でも、もう一つの原因の方が大きいようでした。それは、従業員たちが「こんなにオシャレなお客さんばっかりが来る素敵なお店で働ける」という誇りを失っていたことです。だから、やる気も失っていたのです。

ここまで気づいた問題だけでも、とても大きなショックを受けたのですが、チュー輔はさらによく考えて、もう一つのことにも気づきました。それは、誇りを失っているのは従業員たちだけではなく、お客さんも同じだということです。1店舗しかなかった頃は、オシャレな娘ねずみたちにとってチュー輔のお店に行くことが、特別なことだったのです。でも、あっちこっちにお店ができて、誰でも行くようになった今、それは特別でもなんでもない、ありふれたことです。だから、オシャレなねずみほど来なくなったのですし、お客さんが段々と減ったのです。

つまり、従業員の接客の質が低下して、そのためにお客さんの質が低下して、そのために従業員の接客の質が低下して、そのためにお客さんの質が低下して、ということを繰り返していたということです。もしかしたら、最初にお客さんの質が低下したのかもしれません。もしかしたら、お客さんの質も従業員の接客の質も、どっちも同時に低下したのかもしれません。いずれにしても、相互作用で低下したことは間違いないでしょう。

だから、どちらも同時に改善しないと、この問題は解決しないということになります。チュー輔は、どうすればいいのか考えました。たくさんの問題に気づくために考えた時よりも、もっともっとたくさん考えました。でも今度は、何一つ考え付きませんでした。チュー輔のお店には、とってもたくさんのお客さんと、とってもたくさんの従業員がいるのです。しかも、それを一気に改善しなければならないのです。そんなことは、神様じゃなければ、できっこありません。

nezumi_green_road.gifチュー輔は、悩みに悩みました。何かいい方法があるのではないかと、色々なことを考えました。でも、最終的にたどり着いた結論は、全部のお店をたたむということでした。つまり、倒産です。倒産に際して、チュー輔は従業員たちに退職金を支払いました。だからチュー輔は、大金持ちから一転して、無一文になったのです。


one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

売上を拡大させる手順には、大きく分けて、2つの考え方があります。一つはペネトレーション戦略といって、一気にシェアを高めるという考え方です。広告をバンバン流して(あるいは営業をバンバン仕掛けて)、急激にたくさん販売するわけです。この戦略は、莫大な広告費(あるいは人件費)が必要になるので、基本的には、大企業にしか実行できません。だから、大企業がペネトレーション戦略を行うと、中小企業は太刀打ちしにくくなります。

ただし、ペネトレーション戦略には、弱点があります。それは、飽きられてしまうスピードも速いということです。たくさん売れている商品というのは、何のこだわりのない人も買っているわけです。だから、そういう商品は、こだわりのある人は買いません。そのため、広告や営業によるインパクトの効果がなくなると、急に魅力のない商品になってしまい、値引きしないと売れないということになってしまいます。

その逆の考え方が、スキミング戦略です。こちらは、わざとゆっくり認知を高めます。つまり、こだわりのある人しか見ない雑誌やウェブサイトだけで広告して、そういう人だけにしか売らないのです。そうすることで、「こだわり派のための商品」というイメージを付けるわけです。そういうイメージが付けば、少々高くても買ってもらえます。そういう状態になってから、徐々に認知を高めていくのです。
なのでスキミング戦略は、なかなか売上が増えませんが、1つの商品で長期にわたって利益を拡大できます。それに、一人のお客さんに何度もリピートしてもらうための戦略ですから、人口減少時代に適しているのです。

逆に、ペネトレーション戦略は、リピートはあまり期待できません。だから、人口減少時代では、ペネトレーション戦略を繰り返しているだけでは売上は減少していくことになります。人口減少時代は、一人ひとりのお客さんと誠意のあるお付き合いをする企業が生き残っていくでしょう。

第7章 質問して提案する<前編>へ続く ※2012年4月20日(金)公開!

next_story1.JPG次回は・・・ 
チュー輔が行方不明になり、徐々にみんなから忘れられていきます。チュー太は心配しながらも自分のお店で手一杯です。もしも チュー太が病気にでもなればお店を閉じなければなりません。そうするわけにはいかないので、何とかお店の売上を伸ばし、せめて2匹で働くようになりたいと 考えますが、どうやって売上を伸ばしたら良いのかいいアイディアは思い浮かびません。ここでもまたおチューさんから助言をもらい助けてもらうこと に・・・。