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04.20.12

第7章 質問して提案する<前編>

前回までのお話
ねずみのチュー太は「働くねずみのためのチーズ屋さん」を開店しました。お客さんは少ないですが、チュー太の真面目な接客とクチコミで徐々に増えていきました。一方、同じ頃に独立したチュー輔のオシャレねずみのためのお店は大繁盛しますが、お店を拡大するうち、来るお客さんはオシャレではなくなり、更に店員の接客の質は落ち、仕事への誇りを失っていました。解決しようと必死で悩むチュー輔の出した答えは、お店を倒産させることでした。
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第7章<前編>

chuta&cheese152_125.jpgチュー輔のお店が突然全部一気に閉店したことに、国じゅうのねずみが驚きました。でも、チュー輔のお店が無くなっても、困るねずみは一匹もいません。チュー輔のお店はオシャレを楽しむためのお店でしたから、それが無くなっても生活には支障がありません。それに、オシャレをしたいのなら、他の方法でオシャレを楽しめばいいだけです。
チュー輔のお店で働いていたねずみたちですら、ほとんど困りませんでした。チュー輔のお店の従業員たちは、退職金をもらいました。それにみんなアルバイトだったので、チュー輔のお店がつぶれても、また他のお店でアルバイトすればいいだけです。そういうわけですので、1ヶ月もすると、みんなチュー輔のお店のことなど、すっかり忘れてしまいました。

でも、チュー太は違います。チュー太にとってのチュー輔は、ずっと一緒に親方のお店で働いてきた仲間ですし、同じ時期に独立した同志です。しかも、先に大成功したお手本的存在でもあるのです。だから、忘れられるはずがありません。チュー太は、お店を閉めると同時に姿を消したチュー輔のことを、とても心配していました。
「チュー輔のヤツ、どこでどうしているんだろう? ご飯はちゃんと食べているんだろうか? 寝る場所はちゃんとあるんだろうか?」
チュー太は、チュー輔が困っているのなら、自分のお店に来てくれればいいのに、そして一緒に働いてくれればいいのにと思っているのです。でも、誰に聞いてもチュー輔の居所を知りませんでしたし、どこを探せばいいのかも分かりません。だからチュー太は、何もすることが出来ず、ただただ心配するしかありませんでした。

それにチュー太は、誰かの心配をしていられるような立場ではありません。お客さんが順調に増えたのは最初のうちだけで、自分一匹分の生活費を稼ぐのがやっとこさの状態なのです。親方やチュー輔のお店のように、従業員を雇うような余裕はありません。
それでも一度も赤字になっていないのですから、一応独立に成功したとも言えるでしょう。実際チュー太も、そう思っていました。でも、時間が経つにつれて、このままではダメだという気がしてきました。自分一匹で働いているわけですから、自分が病気になったら、お店を閉めるしかありません。そうなったら、即赤字です。だから、最低でも二匹で働くようにする必要があるわけです。そのためには、最低でも今の2倍のお客さんに来てもらわなければなりません。
そうは言っても、チュー太には、広告をするようなお金はありません。せめてチラシでも配れればいいのですが、その分のお金すらないのです。何か別のことで、お客さんを増やせる方法を考えなければなりません。だからチュー太は、チュー輔のことも心配ですが、自分のお店の心配もしなければならないのです。

nezumi_green_flower.gif「こんにちはー」
「あ、おチューさん、いらっしゃい」
「うん。いつものヤツ、2週間分ちょーだい」
「はい。毎度ありがとうございます」
「それにしても、なんか暗いわねぇ~。お友達が倒産して行方知れずになっちゃったんだから、気持ちは分かるけどさぁ。いつまでも暗い顔してると、お客さんが減っちゃうよ」
「それは困ります。でも、僕って、そんなに暗い顔してますか?」
「そうねぇ。よく考えると、今が特に暗いっていうんじゃなくて、前から暗かったわねぇ」
「元々そういう性格なんですよ。でも、僕は暗いんじゃなくて、おとなしいだけです」

チュー太は、ちょっとムッとして軽く反論しました。でも、おチューさんは、そんなことにはお構いなしです。

「それを暗いって言うのよ。客商売なんだからさ、もっと愛想良くしなきゃ」
「僕、愛想悪いですか? これでも愛想良くしてるつもりなんですけど」
「あきれた。それで愛想良くしてるつもりなんだ。まあ確かに、アンタは誠実な感じはするわよ。でも、誠実なだけじゃダメよ」
「じゃあ、どうしたらいいんでしょう?」
「だから、もっと愛想良くするのよ」
「もっと愛想良くしたら、少しはお客さんが増えますかね?」
「そりゃあ、増えるに決まってるじゃない」
「えっ! 本当?」
「当たり前じゃないの」

チュー太は、お客さんを増やしたくてしょうがありません。愛想良くしただけでお客さんが増えるなら、喜んで愛想良くします。でも、チュー太には、どうやったら愛想良くなるのかが分かりません。

「じゃあ、どうやったら愛想良くなるのか教えてください!」
「アンタ、そんなことも分からないのに、客商売を始めちゃったんだ。いいわ、私が教えてあげる」
「ぜひお願いします!」

チュー太は、藁にもすがる思いでお願いしました。

「アンタはさ、お客さんに、必要最低限のことしか話しかけないじゃない? 料金はいくらになりますとか、毎度ありがとうございますとか」
「ええ、まあ。だって、それ以外に話すことないし」
「それじゃダメなのよ。もっと色々なことを話しかけなきゃ」
「でも、何を話せばいいんですか? 今日は天気がいいですね、とか?」
「それでも悪くはないけど、もっとチーズ屋らしいことの方がいいわね」
「チーズ屋らしいことって?」
「チーズに関することなら、何でのいいのよ。例えば、今日はこのチーズがお勧めですよ、お一ついかがですか、とか」
「それは、聞かれれば答えてますけど」

それを聞いたおチューさんは、ため息を一つついて、出来の悪い生徒に話しかけるように言いました。

「お客さんから聞かれたことだけに答えててもダメよ。こっちからも話しかけなきゃ。話しかけるっていうか、質問するのね」
「質問?」
「そう。相手のことについて、色々聞き出すのよ」

第7章 質問して提案する<後編>へ続く ※2012年4月24日(火)公開!

nezumi_green_flower.gifこれまでチュー太が学んだこと
第1章 新しい事業・商品を作るときは、最初に「誰のためにビジネス」をするのか考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをよく知る。リサーチしないと戦略は立てられない。
第3章 ターゲットを絞り込み、ターゲットのためのサービス提供で顧客満足度を上げる。
第4章 良い商品でも特徴を伝えなければ売れない。キャッチコピーで差別化を図る。
第5章 売上と利益の関係を考える。やみくもに固定費、変動費を抑えればいいわけではない。
第6章 売上拡大にはペネトレーション戦略(広告などで一気に認知を広げる)とスキミング戦略
     (メディアを選択しゆっくりと認知を広げる)がある。特徴をよく理解し戦略を立てる。