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04.27.12

第8章 お客さんとのコミュニケーションを増やせ<前編>

前回までのお話
チーズ職人としての腕を磨き、独り立ちしたチュー太。少しずつお客さんは増えたものの自分1匹が生活していくほどしか売上がありません。売上を伸ばすためにどうしたらよいのか・・・。チーズ好きのおチューさんからのアドバイスは「お客さんに質問して提案する」ということでした。お客さんの好みを聞き出し、それに合った食べ方をおススメすること。お客さんに喜んでもらえれば、足をもっと運ぶようになったり、知り合いにも薦めてくれ、売上が増えるのです。
第1章からご覧になる方はこちら

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第8章<前編>

おチューさんからのアドバイスを受けて、早速チュー太はお客さんに質問し始めるようになりました。でも、おチューさんが言ったようには、会話が盛り上がりません。確かにこちらが質問すれば、お客さんは答えてくれます。その答えに対して、チュー太が気の利いたことを言えれば会話が続くのでしょうが、チュー太にはそれが出来ません。チュー太は元々口下手だし、それに相手のことを知らなすぎるので、何を言ったらいいのか分からないのです。

何を言ったらいいのかを考えるためには、もっと相手のことを知る必要がありそうです。だから、もっと相手のことを知るために質問しようとしているわけですが、その質問を考えるためにもっと相手のことが知りたいのです。これじゃ堂々巡りで、いつまで経っても質問できません。だからチュー太は、大抵のお客さんに対して、ろくに質問できずじまいでした。

nezumi_flower_road.gifでも、一部のお客さんとだけは、ちょっとはましな会話が出来ました。そのお客さんたちは、他のお客さんよりも頻繁にお店に来てくれるのです。大半のお客さんは、2週間分のチーズを買っていくので、2週間に一回しか来ません。でも、もっと少ない分しか買っていかないお客さんもいます。そういうお客さんは、すぐに食べ終わってしまうので、頻繁に買いに来てくれるのです。そういうお客さんとは、口下手なチュー太も前からちょこちょこ話をしていました。だから、どういう好みのお客さんなのかが分かっていたので、スムーズに会話が出来たのです。

例えば、そういうお客さんが少しずつしか買わない理由は、鮮度を重視しているからです。2週間分買っても大丈夫なことは分かっているのですが、やっぱり新鮮なうちの方がおいしいと思っているのです。だからチュー太も、それに合わせて、お客さんがどういう所にチーズを保管しているかを質問して、もっと良い保存方法を教えてあげたりしていたのです。だから自然に会話が盛り上がったというわけです。

そのお客さんたちとのやり取りを思い出していたチュー太は、突然ハッと気づきました。なんと、チュー太のお店を支えている屋台骨である<デイリーフレッシュパックチーズ>に、思いもしなかった大きな弱点があったのです。それが、チュー太のお店のお客さんが増えない原因になっていたのです。

<デイリーフレッシュパックチーズ>は、基本的に2週間分で一つの商品です。だから、ほんとどのお客さんは、2週間分買っていきます。そのため、2週間に1回しか来てくれません。しかも、2つ買っていくお客さんも珍しくありません。そういうお客さんは、4週間も来てくれないことになります。これじゃ、お客さんと仲良くなれるわけがありません。つまり、チュー太のお店の一番の自慢が、一番の弱点だったのです。だから、弱点を無くそうとすれば、自慢も無くなってしまいますので、それは出来ません。チュー太は困ってしまいました。

nezumi_flower_road.gifとにかく、どうにかして、もっと頻繁にお客さんに来てもらう必要があります。でも、<デイリーフレッシュパックチーズ>を2週間分買ったお客さんは、どう考えても2週間以上来てくれません。チーズが家にある間は、お客さんはチュー太のお店には用が無いのです。

そこでチュー太は、ふと思いました。
「用が無いなら、用を作り出せばいいんじゃないのか? そうすれば、お店に来てくれるだろう」
チュー太は、そう思ったのです。
「でも、どんな用を作り出せばいいんだろう?」
チュー太には、それが分かりません。そもそも、お客さんの用を勝手に作り出すことなんて、出来るのでしょうか?

まず、考えられる方法として、他の食べ物も売るという方法があります。でも、チュー太には、チーズしか作れません。他の食べ物の作り方は、全然知らないのです。チーズの原料として仕入れている牛乳を売るという手も考えましたが、牛乳屋さんよりも安く売ることは無理なので、これもダメです。

食べ物以外のものを売ることも考えました。でも、食べ物よりも頻繁に買うものなんて、ありません。だから、食べ物以外のものを売っても、チュー太の問題は解決しません。
「じゃあ、ものを売るんじゃなくて、何かのサービスをしたら?」
毛繕いやヒゲのお手入れなど、色々と考えてみましたが、それだってせいぜい1ヶ月に1回くらいです。それに、そんなサービスは、そもそもチュー太には出来ません。

「毎日じゃなくても、せめて1週間に2回くらい来てもらえるといいんだけど......」
仮にそういうことを思いついたとしても、自分に出来ないことだったら意味がありません。だからチュー太は、自分には何が出来るのか、考えてみることにしました。

チュー太は、腕のいいチーズ職人ですから、おいしいチーズを作ることができます。でも、それはもうやっています。それ以外で、自分に出来ることを考えなければなりません。しかも、自分にも出来るけど、他の誰にでも出来ることだったら、無意味です。他のねずみには出来ないけど、チュー太には出来ることを考える必要があるのです。
「そんな特別な能力は、僕には無いよなぁ......」

nezumi_flower_road.gifそう諦めかけたチュー太でしたが、あることを思い出しました。それは、親方のお店での修行時代のことです。チーズ職人ねずみたちは、お給料が安いので、売れ残ったチーズをもらって、それを食べていたのです。でも、売れ残りの古いチーズですから、そのまま食べたらおいしくありません。だから、チーズ職人ねずみたちは、独自で色々と工夫して食べていたのです。その食べ方をすれば、売れ残りの古いチーズでもそこそこおいしく食べられるのですから、新鮮なおいしいチーズで同じ食べ方をすれば、もっとおいしくなるかもしれません。

そう思ったチュー太は、早速それを試してみることにしました。売れ残りの古いチーズのおいしい食べ方を、チュー太は修行時代に50種類くらい考え出していました。その中でも特に手軽な食べ方を20種類選びました。そして、それを全部、試してみたのです。するとチュー太の思った通り、どの食べ方も、とってもおいしいではありませんか。

そこでチュー太はひらめきました。その食べ方を、お客さんたちに教えるのです。チュー太のお店のお客さんたちは、みんなチーズ好きばかりです。固くなったチーズを残さないための手間は面倒でしょうが、おいしいチーズをよりおいしく食べるための手間であれば、チーズ好きのねずみたちは嫌がらないはずです。だから、そういうお料理教室を開けば、きっとみんな来てくれるに違いありません。

thinkingchuta.jpgチュー太は、手書きのポスターを1枚作りました。そこに大きく、こう書きました。
「チーズ職人だけが知っている 手軽に出来る チーズのおいしい食べ方を教えます」
そして、このポスターを、お店の壁に貼りました。

第8章 お客さんとのコミュニケーションを増やせ<後編>へ続く
※2012年5月1日公開!

これまでチュー太が学んだこと
第1章 新しい事業・商品を作るときは、最初に「誰のためにビジネス」をするのか考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをよく知る。リサーチしないと戦略は立てられない。
第3章 ターゲットを絞り込み、ターゲットのためのサービス提供で顧客満足度を上げる。
第4章 良い商品でも特徴を伝えなければ売れない。キャッチコピーで差別化を図る。
第5章 売上と利益の関係を考える。やみくもに固定費、変動費を抑えればいいわけではない。
第6章 売上拡大にはペネトレーション戦略(広告などで一気に認知を広げる)とスキミング戦略
     (メディアを選択しゆっくりと認知を広げる)がある。特徴をよく理解し戦略を立てる。
第7章 質問し提案することでお客さんの満足度を上げる。ニーズやウォンツは、ただ聞くのではなく
     「こうじゃないか、ああじゃないか」と多くの仮説を立てながら質問することが重要。