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05.15.12

第10章 新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持が大切<前編>

前回までのお話
チーズ職人として独立、お店を開いたチュー太は、働くメスねずみのために天然素材100%でカロリーがあまり高くないチーズを販売しました。お客さんとのコミュニケーションを増やし、どんどんお客さんは増えていきました。そこでアルバイトのチュー子ちゃんを雇い、チュー太はチーズ作りに専念できるようになり、たくさんの量のチーズを作れるようになりました。そこでこれまで働くメスねずみをターゲットとしていましたが、新しいターゲットとしてちょっとお金持ちで、若さを維持したい「ちょいワルねずみのためのチーズ屋さん」をオープンさせました。 第1話からご覧になる方はこちら

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第10章<前編>

チュー子ちゃんの狙いは、ズバリ当たりました。<ちょいワルねずみのためのチーズ屋さん>の<D.D.>は、オープン直後から飛ぶように売れたのです。チュー子ちゃんは、チーズ職人じゃないから、チーズのことは詳しく知りません。でも、毎日たくさんのお客さんと話をしていたので、お客さんについてはとても詳しかったのです。だからチュー子ちゃんの考えは、お客さんの好みとピッタリ一致していたわけです。

チュー子ちゃんは今、新しいお店の方で働いています。元のお店の方は、新しいアルバイトねずみが働いています。その新しいアルバイトねずみは、チュー哉という若いイケメンねずみです。元のお店は妙齢の独身メスねずみが多いので、イケメンの方がいいだろうと思って採用したのです。

チュー哉はチュー太の狙い通り、すぐにお客さんたちのアイドルになりました。でも、どういうわけか、徐々に売上が落ちてきました。ただし、それはほんの少しだけのことです。それに、新しいお店の方の売上がありますから、トータルでは以前よりもずっと儲かっています。だからチュー太はあんまり気にしていませんでした。ところがある日、気にしないわけにはいかなくなりました。おチューさんから、大変なことを言われてしまったのです。

nezumi_green_flower.gif「あ、おチューさん、用って何ですか?」

チュー太はお店の奥で作業していたのですが、そこにチュー哉がやってきて「お客さんが呼んでます」と言うので、お店の方に出てきたのです。そして、チュー太を呼び出したお客さんが、おチューさんだったわけです。

「ちょっと、ここじゃ話しにくいから、こっちに来てくれる?」

そう言って、おチューさんはお店の外に出て行きました。仕方がないので、チュー太もお店を出て、おチューさんの後を追いました。おチューさんは、お店からちょっと離れたところで立ち止まると、くるりとチュー太の方に振り向きました。

「あのさ、チュー子ちゃんのことなんだけどさ」
「はあ」
「チュー子ちゃんは、もうこっちのお店では働かないの?」
「そうですねぇ。当分は、新しいお店の方で働いてもらおうと思ってますけど」
「そっか」
「ええ、それが何か?」
「こんなこと言うのはわがままだってことは分かってるんだけどさ。出来ればさ、あのチュー哉って子とチュー子ちゃんを、交代してもらえないかしら」
「え? なんでですか?」
「私、チュー子ちゃんの方が好きなのよ」
「そう言われましても、チュー哉はまだ新人なので、新しい店は任せられないんですよ。新しい店の方は、チュー子ちゃん一匹に任せっきりなんですよね」

チュー太が言った通り、新しいお店はチュー子ちゃん一匹が取り仕切っています。そのためチュー子ちゃんは、お客さんのちょいワルねずみたちから、全幅の信頼を得ています。だからお客さんから見れば、新しいお店はチュー太のお店と言うよりも、チュー子ちゃんのお店なのです。そのチュー子ちゃんを新しいお店から呼び戻すことなど、とてもじゃありませんがチュー太には考えられません。しかも、チュー太が言った通り、チュー哉にはまだ新人なので、一匹で新しいお店を切り盛りするのは無理です。

「でもさ、新しいお店はすぐそこなんだから、いざとなったらアンタが駆けつければいいじゃないの」
「そういうわけにはいきませんよ。僕は店の奥でチーズの仕込みをしてますから、向こうで何かあっても気づきません」
「じゃあさ、新しいアルバイトねずみを雇うっていうのは、どうかしら」
「チュー子ちゃんの代わりになれる新しいアルバイトねずみを雇うってことですか? そりゃあ無理ですよ」
「そんなこと私にだって分かってるわよ」
「じゃあ、どうしろって言うんですか?」
「新しいアルバイトねずみを雇って、こっちの店で働いてもらうのよ」
「それじゃ、チュー子ちゃんは、あっちの店のままってことになりますけど......」
「まあ、そうなるわね」
「あのぉ~、どういうことなのか、全然分からないんですけど......」
「鈍いわね。私に全部言わせないでよ」
「そうおっしゃられても、本当に分からないんですよ。困ったなぁ」
「じゃあ、ハッキリ言わせてもらうわね」
「はい、お願いします」
「あの新しいアルバイトのチュー哉って子、あの子じゃダメよ」
「え? チュー哉の何がダメなんですか?」

nezumi_green_flower.gifチュー哉はみんなからチヤホヤされているので、チュー太にはおチューさんがなんでダメだと言っているのかがまるで分かりません。

「だって、あの子は、見た目がいいだけで、私たちと話をするのが嫌いみたいなんだもん」
「そんなことないんじゃないですか?」

チュー太が見る限り、チュー哉はちゃんと愛想良く接客しているように思えます。だからチュー太は、おチューさんが何か勘違いしているんじゃないかと思いました。

「そんなことあるわよ。この前だってさ、私と話をしている途中だったのに、違うお客さんが来たら、すぐにそっちの方に行っちゃったしさ」
「すみませんでした。でも、店員が一匹しかいないんで、そういうことがあっても仕方がないんです」
「仕方なくないわよ。だって、チュー子ちゃんだった時は、そんなこと1回もなかったし」
「そうなんですか?」
「そうよ。アンタ、店長のクセに、そんなことも知らなかったの?」
「すみません」
「すみませんじゃ済まないわよ。それに、私が言っていることは、私だけが感じてるわけじゃないのよ。他のお客さんだって、みんなそう言ってるんですから」
「え! そうなんですか?」
「疑うんだったら、他のお客さんにも聞いてみればいいじゃない」
「いえいえ、おチューさんのことを疑うわけがないじゃないですか。疑ってるわけじゃないんですけど、そんなこと全然考えていなかったもので......」
「多分そうなんじゃないかと思ったから、ちょっと差し出がましいとは思ったんだけど、こうしてわざわざ私が言ってあげたのよ」
「はあ、ありがとうございます」
「どうすればいいのか、ちゃんと考えてね」
「分かりました。わざわざありがとうございます」

chuta_entrance123_129.jpgおチューさんは、自分が言いたいことを言い終わると、さっさと帰っていきました。チュー太はおチューさんの後姿を見送りながら、どうしたものかと考えました。

第10章 新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持が大切<後編>へ続く   
※2012年5月18日公開!

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