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05.18.12

第10章 新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持が大切<後編>

前回までのお話
チーズ職人のチュー太は、チーズの味のわかるメスねずみのために天然素材100%で低カロリーのチーズを作っています。「働くメスねずみのためのチーズ屋さん」には多くのお客さんが来るようになり、もっと多くのお客さんに来てもらうため、2店目に「ちょいワルねずみのためのチーズ屋さん」をオープンさせます。2店目は接客の上手なチュー子ちゃんに任せ、メスねずみのためのチーズ屋さんには、新しくイケメンねずみのチュー哉を雇いました。チュー哉はアイドル的な存在となりますが、お客さんのおチューさんから別の店員に変えてほしいと懇願されます。チュー哉はおチューさんと話していても別のお客さんがくるとそちらへ行ってしまうというのです。
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第10章<後編>

この問題は、ちょっと考えたからといって、すぐに答えが出るものではありません。おチューさんが言う通りに新しいアルバイトを雇うとしたら、チュー哉はクビにするということになってしまいます。チュー太のお店は、最近ようやく儲かってきたとはいえ、アルバイトを何匹も雇うほどの余裕はないのです。

それに、チュー哉は一生懸命に働いてくれています。クビにするなど、もっての他です。だから、新しくアルバイトを雇うという選択は出来ません。でも、そうなると今のままということになってしまいますから、おチューさんのせっかくの忠告を無視することになってしまいます。

だからチュー太は、またもや悩むことになってしまいました。でも、悩んでばかりいても仕方がないので、お店が終わってから、チュー哉と話をしてみることにしました。

nezumi_wave_road.gif「チュー哉、お疲れさん」
「あ、店長、お疲れっす」
「ちょっといいかな」
「ええ、いいっすよ。なんすか」

チュー太は、今日おチューさんから言われたことを、チュー哉が気分を害さないように、やんわりとした言い方で説明しました。それを聞いたチュー哉は、なんだそんなことか、という顔をして言いました。

「確かに僕は、そういうことをしてますね」
「え? つまりそれって、わざとやってるってことか?」
「そうっすよ」

あまりにもあっけらかんと答えるチュー哉に、チュー太はあっけにとられてしまい、怒ることさえ出来ません。チュー太が黙っていると、チュー哉が話を続けました。

「だって当然じゃないっすか。そうしなきゃ、お客さんが増えないっすよ」

チュー哉はまたもや悪気のない顔で、チュー太には分かりかねることを言いました。でも、今度は口を開くことが出来ました。

「じゃあチュー哉は、お客さんとの会話を途中で中断した方が、お客さんが増えると思っているってことか?」
「そうじゃないっすよ。お客さんとの会話を中断するのは、あれっすよ。ほら、なんて言うんだっけな。あ、あれだ。必要悪ってやつっすよ」
「必要悪? どういうことだ?」
「だから、他のお客さんと話をするためには、それまで話をしていたお客さんとの話は中断するしかないってことっすよ」
「そうかもしれないけど、それまで話をしていたお客さんとの話が終わってから、次のお客さんと話したって構わないだろう?」
「それでいい時もあるでしょうけど、それじゃダメな時もあるんじゃないっすか?」
「なんで?」
「えーと、例えばっすね、前から来てくれてるお客さんと話をしてるとするじゃないっすか」
「うん」
「そこに、一度も見たことが無い新規のお客さんが来たとしますよね」
「それで?」
「だから、そういう場合は、新規のお客さんを優先的に接客した方が、買ってもらえる可能性が増えますよね? 前から来てくれてるお客さんは、放っておいても買ってくれるわけですから」

nezumi_wave_road.gifああ、そういうことか、とチュー太は思いました。そして、修行時代に親方から教わったことを思い出しました。

それは、新規のお客さんよりも以前から来てくれているお得意さんを大切にしなさい、ということです。儲けようと思うと、お客さんを増やしたいと思う。だから、お得意さんよりも新規のお客さんのことを優遇したくなってしまう。でも、それは間違いだ。お得意さんあっての店だということを、絶対に忘れてはいけない。これが、チュー太が親方から何度も聞かされていたことなのです。

だからチュー太は、昔親方が自分に教えてくれたのと同じように、チュー哉に対して親方からの教えを説明しました。チュー哉は昔のチュー太と同じように、最初はいまひとつ納得がいかないようでした。でも、チュー太がお得意さん一人ひとりのことを具体的にあげながら、お得意さんたちがいかに自分のお店にとって大切な人たちなのかを説明していくうちに、チュー哉にも段々とお得意さんたちの大切さが分かっていきました。そして最後には、完全に納得しました。

「店長、やっと自分にもお得意さんの大切さが分かりました。ありがとうございます! それから、今までは申し訳ありませんでした」

chuta_jump.jpgチュー哉は若者らしく、きっぱりと頭を下げました。

「明日からは、ちゃんとお得意さんを大切にしてくれよな」
「はい。そうします」
「うん、頼りにしてるからな」
「はい。がんばります!」

真面目な顔でそう言ってくれるチュー哉のことを、チュー太は本当に頼もしく感じていました。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

多くの企業は、既存顧客を維持することよりも、新規顧客を獲得することに、予算や人的パワーを割いています。でも、それは、人口減少時代においては、間違いになります。本当は、逆にすべきなのです。なぜならば、既存顧客の維持よりも、新規顧客の獲得の方が、はるかにコストがかかるからです。

人口が増えていた時は、新規顧客の獲得はとても重要でした。なぜなら、人口が増えている時は、あまりコストをかけなくても新規顧客が増えて、それで売上の増加が見込めたからです。

でも、日本の人口は減り始めました。もはや新規顧客の獲得のためにかかるコストは、既存顧客の維持のためにかかるコストよりも7倍から20倍にもなっていることが、多くの研究により実証されているのです。この数値を見て、「だからこそ新規顧客の獲得にコストをかけるんじゃないか」と考えるのは、完全に間違いです。普通に考えて、コストがかからない方法を優先した方がいいに決まっています。

ところが新規顧客の獲得にばかり予算を投下する企業も多く存在しています。もちろん、今という時代をきちんと捉えて、それに対応した経営をしている企業もあります。そういう企業は、既存顧客に関する情報をデータベース化して、きちんと丁寧なCRMを実施しています。

既存顧客に予算を使っていない企業でも、新規顧客の獲得を行っているのであれば、その予算を既存顧客の獲得のために使うべきです。既存顧客は放っておいても継続的にお付き合いしてくれるなどということは、ありえないのです。

お付き合いしてくれるかどうか分からない新規顧客よりも、既にお付き合いしてくれている既存顧客を大切にすることは、基本中の基本です。今お付き合いしている彼女や結婚している相手をほったらかしにしておいて、見ず知らずの人をチヤホヤしていたら、とんでもないことになります。それと同じことなのです。

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第11章 サービスすればいいってもんじゃない<前編>へ続く  
※2012年5月25日公開!

これまでのマーケティング・ワンポイントはこちらです。