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05.24.12

第11章 サービスすればいいってもんじゃない<前編>

前回までのお話
チーズの味がわかる<働くメスねずみ>と<ちょいワルねずみ>のためのお店を経営するチュー太。お客さんとのコミュニケーションを大切にした結果、お客さんが増え、売上も順調に伸びています。アルバイト店員のチュー子ちゃんとチュー哉がそれぞれのお店で接客しています。チュー哉は新規のお客さんを獲得しようと既存のお客さんへの接客が疎かになっていましたが、既存のお客さんあってのお店であり、既存のお客さんを大切にしなければいけないことを学びました。
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第11章<前編>

おチューさんからのアドバイスがあってから、チュー哉の接客はガラッと変わりました。新規のお客さん重視の接客から、お得意さん重視の接客に変わったのです。

そうなってからの<働くメスねずみのためのチーズ屋さん>の売上は、元の通りに回復しました。正確に言えば、チュー哉のおかげで新規のお客さんが増えて、その上お得意さんが戻ってきたので、以前よりも売上が少しだけ増えました。まさに、怪我の巧妙です。

でもチュー哉は、自分の勘違いによる失敗を、今も気にしています。チュー哉は、お得意さんたちに対してもチュー太に対しても、申し訳なく思っているのです。だから、お得意さんたちに対する接客を一生懸命にしています。そのおかげでお店が繁盛するようになったのですが、それでもチュー哉は自分の責任を感じ続けているのです。

だからチュー哉は、もっとお得意さんたちを喜ばせることができないかと考えていました。そして、考えに考えた結果、チュー哉は遂にそのための方法を思いつきました。今日はその方法を、チュー太とチュー子ちゃんに披露するつもりです。最近チュー太のお店では、週に1回3匹で会議をすることにしたのですが、今日がその会議の日なのです。

nezumi_yellow_flower.gif「......というわけなので、今週も特に問題ないよね?」
「店長、ちょっと」
「ん? チュー哉、何か問題があったのか?」
「いいえ、問題はないんですけど、ちょっと聞いていただきたいアイデアがありまして」
「え? アイデア?」

「すごいじゃないチュー哉くん、どんなアイデア? 早く聞かせて」
「いや、大したアイデアじゃないだけど......」
「大したアイデアじゃなくても、お客さんが喜ぶアイデアなら大歓迎だよ」
「本当に大したアイデアじゃないんすけど、お得意さんが喜んでくれそうなサービスを考えたんすよ」
「へぇ~、どんなサービスだ?」
「ええと、ポイント制って言うか、そういうヤツっす」
「ポイント制?」
「何それ。私、聞いたことないわ」

「お買い上げ金額ごとにポイントを出すんだよ。例えば、お買い上げ10円ごとに1ポイントとか。お客さんに会員カードを配って、そのカードにお買い上げ10円ごとに判子を1つ押すんだ。つまり、1ポイントあげるってことだね。で、判子が100個貯まったら、100円サービスするんだよ。そうすれば、お得意さんほどすぐに判子が貯まるだろう? だから、お得意さんほど嬉しいってことになると思うんだ」

「すご~い! チュー哉くん、そんなこと、よく考え付いたわね。ねえ、店長」
「そうだね。僕もいいと思う。ありがとう、チュー哉。すぐに実行しよう」
「本当っすか? そう言ってもらえると、すごく嬉しいっす」

チュー太とチュー子ちゃんに褒められて、チュー哉はとても照れました。そして、とても嬉しく感じました。

nezumi_yellow_flower.gif早速3匹は、次の日お店が終わってから、カードと判子を作りました。勿論、ポイント制サービス開始のポスターも作りました。そして、その次の日には、そのポスターをお店の目立つところに貼って、お客さんたちにカードを配りました。

ポイント制サービスのことを知ったお客さんたちは、みんな大喜びです。特に、お得意さんほど喜んでくれました。つまり、チュー哉が考えた通りになったのです。だからチュー哉は、これでやっとお店に恩返しが出来たと思いました。

ポイント制サービスを始めると、売上が少し増えました。なぜならば、お客さんが以前よりも少しだけたくさん買ってくれるようになったからです。

最初のうちは、チュー太もチュー子ちゃんもチュー哉も、お客さんがポイントを貯めるために少し多めに買ってくれるのだと思っていました。でも、ポイント制サービスを続けているうちに、それだけが原因ではないことに気づきました。

当然、ポイントを貯めたいということもあります。それに加えて、チュー子ちゃんやチュー哉が、お客さんとたくさん話が出来るようになったことも、大きな原因になっているようなのです。お金を支払うだけよりも、判子を押す分だけ時間がかかりますから、その分だけ話が出来るのです。チュー太のお店は、ちょっと値段が高いので、さほどお客さんは多くありません。だから、ゆっくり接客しても問題ありませんし、ゆっくり接客してお客さんとたくさん話をした方が、お客さんが満足してたくさん買ってくれるのです。

だから、お得意さんは、よりお得意さんになってくれました。お得意さんじゃなかったお客さんも、お得意さんになってくれました。そのため、あんまりお客さんが増えなくても、売上が増えたのです。

しかも、さらにポイント制サービスを続けていたら、少しずつお客さんも増えてきました。新たにお得意さんになってくれたお客さんが、自分の知り合いにチュー太のお店のことをお勧めしてくれたのです。

そのため、さらに売上が少しずつ増えていきました。それは嬉しいことなのですが、これ以上お客さんが増えたら、ゆっくりと接客が出来なくなってしまいます。それに、ポイント制サービスは、結局のところ値引きですので、少し売上が増えても利益はあまり増えません。だから、忙しくなっただけで、儲けは変わらないのです。

でもチュー太は、それでいいと思いました。なぜならば、ポイント制サービスのおかげで、以前よりもお客さんたちが喜んでくれているからです。儲けが同じでも、お客さんが喜んでくれるようになったのなら、それで大成功だと思ったのです。

ただしチュー太には、1つだけ心配なことがありました。それは、チュー子ちゃんとチュー哉のことです。お客さんが増えて忙しくなったのだから、二匹のアルバイト代を上げてあげたいのですが、何せ儲けは増えていません。だから、アルバイト代を上げてあげられません。そのためチュー太は、チュー子ちゃんとチュー哉に対して、とても申し訳ないと感じていたのです。

だからチュー太は、チュー子ちゃんとチュー哉に、アルバイト代を上げてあげたいのだけれど上げてあげられないという話を、正直にすることにしました。すると二匹とも、こう言いました。

「このお店は楽しく働けるから、アルバイト代は今のままで十分です」
「僕は、やっとお店の役に立てるようになったばっかっすから、アルバイト代を上げてもらおうなんて、全然考えてないっすよ」

それを聞いたチュー太は、涙が出そうになるほど嬉しくて、二匹に対して何度も何度もありがとうと言いました。そして、本当にいい仲間に出会えたと、心から思いました。

ところが、それから1ヶ月ほどすると、さらにお客さんが増えて、とても忙しくなってしまいました。時間帯によっては、ゆっくり接客することが出来ないほどです。

thinkingchuta.jpgだからチュー太は、多少無理してでもやっぱりアルバイト代を上げてあげる必要があると考えました。でも、すぐにそうすることは出来なくなってしまいました。チュー太がアルバイト代の値上げを考えていた矢先、そんなことを言っていられないことが起こってしまったのです。

第11章 サービスすればいいってもんじゃない<後編>へ続く
※2012年6月1日(金)公開!

チュー太が売上を伸ばすために学んだマーケティング・ワンポイント