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05.01.12

第8章 お客さんとのコミュニケーションを増やせ<後編>

前回までのお話
チーズ職人として独り立ちしたチュー太。少しずつお客さんは増えたものの自分1匹が生活していくほどしか売上がありません。売上を伸ばすにはどうしたらいいのか・・・。チーズ好きのおチューさんからのアドバイスはお客さんに質問し提案することでした。例えばお客さんの好みを知ればお客さんに合った食べ方などの提案ができ、お客さんの満足度が上がり、友だちに紹介をしてくれるかもしれません。しかし口下手なチュー太は、実際は何を質問していいのかわかりません。もっと頻繁に来店してもらえば自然にお客さんと会話ができると思ったチュー太は、おいしいチーズをよりおいしく食べるための料理教室を開くことにしました。 第1章からご覧になる方はこちら

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第8章<後編>

「チーズ職人だけが知っている 手軽に出来る チーズのおいしい食べ方を教えます」
そして、このポスターを、お店の壁に貼りました。

反響は、すぐにありました。お店に来たお客さんたちは、ほとんど全員がお料理教室に関心を示しました。そして、たくさんのお客さんが、参加の予約をしてくれたのです。予約してくれないお客さんは、他に都合があってどうしても参加できないという場合が多かったので、その次の回の予約を入れるようにお勧めしました。そうすると、お客さんは喜んで予約を入れてくれました。

実際にお料理教室が始まると、ますます反響が大きくなりました。みんな、チュー太から教えてもらった食べ方を、自宅で試してみたのです。そうしたら、ビックリするくらいおいしかったのです。だから、みんな、次のお料理教室にも、その次のお料理教室にも、そのまた次のお料理教室にも来てくれました。だから、チュー太とお客さんたちは、どんどん仲良くなりました。

その結果、おチューさんが言っていた通りのことが起こりました。まず、他のお店でもチーズを買っていたお客さんたちが、チュー太のお店だけでチーズを買うようになりました。だから、売上が少しだけ増えたのです。チュー太は、それだけでもとても嬉しかったのですが、お料理教室を繰り返すうちに、もっと売上が増えていきました。

それは、何度かお料理教室を繰り返していると、新しいお客さんが増えていったからです。お客さんたちが、チュー太から教えてもらったチーズのおいしい食べ方を、自分の友達に教えたおかげです。教えてもらった友達は、自分でもその食べ方を試してみたのでしょう。そうしたら、ビックリするくらいおいしかったから、自分でもチュー太のお料理教室に参加するようになったのです。そして、ついでにチーズも買ってくれるようになったというわけです。だから、大幅に売上が増えました。

お客さんが増えたし、今はチーズを作って売っているだけじゃなくて、お料理教室もやっています。だからチュー太は、大忙しです。本当に寝る暇もないくらい、忙しくなってしまいました。儲かることは嬉しいのですが、さすがにこれでは身体がもちません。それに、身体を壊してしまったら、お店を閉めるしかありません。それじゃ、本末転倒もいいところです。

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だからチュー太は、アルバイトを雇うことにしました。誰かを雇っても、チーズ作りとお料理教室は自分でやるしかありません。誰かに頼めそうな仕事は、販売だけです。だからチュー太は、お店で売り子さんをやってくれるアルバイトねずみを募集することにしました。

募集を始めたら、すぐに応募が殺到しました。応募書類に目を通すだけでも大変な量です。でもチュー太は、たくさんの応募書類を1枚1枚丁寧に読みました。だって、これから毎日一緒に働く仲間です。しかも、二匹だけで働くのですから、相性がいいねずみじゃないとダメでしょう。だからチュー太は、応募書類から、相手の性格を読み取ろうとしていたのです。そして、たくさんの応募書類の中から、20匹のねずみを選び出しました。本当は全員に会ってみたかったのですが、そんな時間はありません。だから、仕方なく20匹だけに会うことにしたのです。

20匹に一通り会って、今度は10匹に絞りました。これも、自分と相性が良さそうだという基準で選びました。問題は、この先です。残った10匹は、誰とでも相性が良さそうなのです。だから、相性だけでは、これ以上絞れません。でも、一匹だけ選ばなければならないのです。何か他の基準で選ぶ必要があります。

そこでチュー太は、どれだけチーズ好きかを基準に選ぼうと考えました。でも、それよりも大切なことがあることに気づきました。それは、質問が上手であること、です。チーズ売りにとって、それがとても重要だということを、今のチュー太は実感しています。チーズ売りはチーズが好きなことよりも、質問が上手な方が適しているのです。だからチュー太は、次の面接では、自分が質問するのではなく、相手に質問させることにしました。面接に来た10匹はみんな、てっきり自分が質問されると思っていたので、自分が質問することになって面食らっていました。でも、一匹だけ、とても上手に質問できるねずみがいました。

そのねずみは、チュー子ちゃんという、明るい性格の娘ねずみです。他のねずみは、仕事内容や労働条件に関する質問ばかりしていました。でも、チュー子ちゃんだけは、チュー太のことについての質問ばかりしました。

「チュー太さんは、なんでチーズ職人になったんですか?」
「修行時代は、どんなことをしていたんですか?」
「どうやって<デイリーフレッシュパックチーズ>を考え出したんですか?」
「チーズ職人というお仕事は、どんなことが楽しくて、どんなことがつらいですか?」
「一人で働いていて、寂しくないですか?」

こんな感じです。チュー太は、チュー子ちゃんの質問が、仕事内容や労働条件についてじゃなくて、なんでチュー太のことばかりなのか、不思議に思いました。仕事内容や労働条件は、自分自身にとってとても重要なことです。でも、チュー太がチーズ職人になった理由や修行時代のことなどは、チュー子ちゃんにとっては、あんまり重要ではないように思えます。だからチュー太は、最後にチュー子ちゃんに一つだけ質問しました。

chuta_entrance123_129.jpg「なんで君は、僕に関する質問ばっかりするの?」
するとチュー子ちゃんは、不思議な顔をして答えました。
「なんでって、これから一緒に働く相手のことを知りたいのは、当然でしょう? それって、おかしいですか?」

それを聞いたチュー太は、とても嬉しくなりました。そして、その場でチュー子ちゃんを採用することに決めました。なぜなら、チュー子ちゃんが自分と同じ考え方をしていたからです。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

人口減少時代は、お客さんのニーズやウォンツを理解することが、ますます重要になっていくということは、既に説明した通りです。そして、出来るだけたくさんお客さんのことを理解するためには、出来るだけ何度もお客さんとコミュニケーションする必要があります。だから今後は、お客さんとのコミュニケーションを増やす努力を、もっとしなければならないのです。

実は、お客さんとのコミュニケーションを増やすことによるメリットは、もう一つあります。コミュニケケーションというのは、双方向です。だから、コミュニケーションが増えれば、こちらもお客さんのことを理解できるようになりますが、同じようにお客さんの方もこちらを理解できるようになるのです。そして、よりたくさん理解した相手に対しては、人は愛着を感じるものです。恋人同士は、最初は一時的な感情から始まりますが、長い間お付き合いすることによって、お互いのことをよく理解するようになって、一時的な感情から徐々に深い愛情になっていきます。ビジネスも、それと同じことです。

だから、そういう関係になると、お客さんはこちらの商品のことが大好きになります。当然、値引きなんてしなくても買ってくれます。さらに十分に愛情が深まれば、多少高くても買ってくれるようになります。それに、積極的にクチコミを広めてくれます。

念のため説明しておきますと、お客さんとのコミュニケーションは、お客さんと直接話をすることばかりじゃありません。勿論それも、とても重要なことです。でも、アンケートだって広告だってカタログだってホームページだって、お客さんとのコミュニケーションなのです。店頭で商品を見かけることも、他の人が商品を使っているのを見かけることも、コミュニケーションです。つまり、何らかの形でお客さんと接触することが、全てコミュニケーションなのです。そういうコミュニケーションを出来るだけ増やす努力をする必要があるのです。

第9章 これまでと違うタイプのお客さんを増やす際の注意点<前編>へ続く 
※2012年5月8日(火)公開!

これまでチュー太が学んだこと
第1章 新しい事業・商品を作るときは、最初に「誰のためにビジネス」をするのか考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをよく知る。リサーチしないと戦略は立てられない。
第3章 ターゲットを絞り込み、ターゲットのためのサービス提供で顧客満足度を上げる。
第4章 良い商品でも特徴を伝えなければ売れない。キャッチコピーで差別化を図る。
第5章 売上と利益の関係を考える。やみくもに固定費、変動費を抑えればいいわけではない。
第6章 売上拡大にはペネトレーション戦略(広告などで一気に認知を広げる)とスキミング戦略
     (メディアを選択しゆっくりと認知を広げる)がある。特徴をよく理解し戦略を立てる。
第7章 質問し提案することでお客さんの満足度を上げる。ニーズやウォンツは、ただ聞くのではなく
     「こうじゃないか、ああじゃないか」と多くの仮説を立てながら質問することが重要。
第8章 お客さんとのコミュニケーションはニーズ、ウォンツを知る機会であり、
     信頼関係を築くための大切な機会。積極的に増やすようにする。