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05.08.12

第9章 これまでと違うタイプのお客さんを増やす際の注意点<前編>

前回までのお話
チーズ職人として独り立ちしお店を開いたチュー太は、働くメスねずみのために、天然素材100%でカロリーがあまり高くないチーズを販売しました。お客さんとのコミュニケーション量を増やし、お客さんの好みにあったチーズの食べ方などを提案するようになりました。また多く来店してもらうためにおいしいチーズをよりおいしく食べてもらうらめの料理教室も始めました。同じお客さんが何度も来てくれたり、お客さんが別のねずみにお店を紹介するなどして、お客さんはどんどん増えていきました。そこでアルバイト店員としてチュー子ちゃんを雇うことにしました。
第1章からご覧になる方はこちら

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第9章<前編>

チュー子ちゃんが来てくれるようになってから、チュー太は昔のことをよく思い出すようになりました。それは、自分がまだ親方のお店に弟子入りしたばかりの頃のことです。その頃は何もかもが新鮮で、仕事をすることが楽しくて仕方がありませんでした。それに、一緒に働く仲間たちと協力し合って一つの仕事を進めていくことも、とても楽しいことでした。

でも、独立してからのチュー太は、そんな仕事の楽しさをすっかり忘れていました。毎日新しいことが起こるのは、親方のお店で働いていた頃も独立してからも同じです。だから、昔も今も、毎日色々と工夫する必要があります。ところが、昔はそれが楽しく思えたのに、独立してからはそれが嫌なことになっていました。

それが、チュー子ちゃんが来たとたん、昔と同じように楽しく思えるようになったのです。チュー太は、仕事そのものを嫌いになりかけていた自分に気づきました。そして、仕事の楽しさに改めて気づいたのです。チュー子ちゃんが来てくれて、仕事の量が減って楽になったことも原因の一つかもしれません。でも、そんなことよりも、一緒に働く仲間がいるということがとても大きいと、チュー太はしみじみ感じています。

nezumi_blue_dot.gif「こんにちはー、いらっしゃいませー」
「あ、お客さん、この前お買い上げいただいたチーズは、そっちのチーズよりも、こっちのチーズと一緒に食べるとおいしいですよ」
「今週のお料理教室のテーマは、きっとお客さんの好みに合いますよ。絶対にお勧めですよー」

お店の奥の作業場でチーズの仕込みをやっているチュー太の耳に、お店の方からチュー子ちゃんがお客さんに話しかける明るい声が聞こえてきます。それを聞いていれば、チュー子ちゃんがそつなく接客してくれていることが分かります。そつなくどころか、チュー太よりもよっぽど上手に接客してくれています。

チュー太は、安心して接客をチュー子ちゃんに任せて、チーズの仕込みに専念できます。そのためチュー太は、以前よりもたくさんのチーズを作ることができるようになりました。お客さんが増えてからは、品切れになることが多かったのですが、これならもう大丈夫です。もう少しお客さんが増えたって、大丈夫なくらいです。

なのでチュー太は、また新しいことで悩み始めることになってしまいました。それは、どういうお客さんを増やすべきなのか、ということです。それによって、どういうチーズを売ればいいのかも変わります。今までと同じタイプのお客さんだけを増やしていけるのであれば、悩む必要はありません。でも、それではこれ以上お客さんが増えそうにないのです。お客さんを増やすためには、別のタイプのお客さんを見つける必要があります。だからチュー太が、どういうタイプのお客さんを増やすべきか、悩まなければならないというわけなのです。

今日も一日中、チュー太は悩んでいました。でも、お店を閉める時間になっても、答えは出ませんでした。そこでチュー太は、自分一匹だけで考えるよりも、チュー子ちゃんと一緒に二匹で考えた方がいいのではないかと思い付きました。チュー子ちゃんはチーズ職人ではないので、チーズ作りに関しては素人です。それでも一匹で考えるよりは少しはましなのではないかと、チュー太は思ったのです。

nezumi_blue_dot.gifお店の片づけを終えてから、チュー太はチュー子ちゃんに話しかけました。

「チュー子ちゃん、お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
「あのさ、ちょっと相談したいことがあるんだけど、まだ帰らなくても大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫ですよ。なんでしょうか?」

「チュー子ちゃんが来てくれたおかげで、僕はチーズ作りに専念することが出来るようになったでしょう? だから、たくさんチーズを作れるようになったわけだから、もっとたくさんのお客さんに売れるようになったってわけだ」
「ええ、そうですね」
「それでね、どういうお客さんを増やせばいいのか、考えてるんだよ」
「それで、どういうお客さんを増やすことにしたんですか?」
「いや、それが分からなくて困ってるんだ。だから、チュー子ちゃんの意見を聞いてみようと思ったんだよ」
「ああ、そういうことですか」
「そうなんだよ。チュー子ちゃんは、どう思う?」
「そうですねぇ~」

そう言って、チュー子ちゃんは首を傾げました。誰だって、そんなことを急に聞かれても、すぐには答えられないですよね。でも、チュー子ちゃんは、すぐに何か思いついたみたいです。

「あのー、もう1軒、お店を増やすっていうのはダメですか?」
「え? 僕はお店を増やしたいんじゃなくて、お客さんを増やしたいんだけど」

チュー太は、チュー子ちゃんが何か勘違いしているのかと思いました。でも、そうじゃありません。チュー子ちゃんには、ちゃんとした考えがあったのです。

「それは分かってます。でも、お客さんを増やすんだったら、お店をもう1軒出した方がいいと思うんですよ」
「なんで?」
「お客さんを増やすんだったら、今度はオスねずみを狙うべきだと思うんですよね」
「オスねずみ?」

オスねずみのことは、チュー太は全く考えていませんでした。チュー太は、知らず知らずのうちに、メスねずみのことばかり考えていたのです。だって、チュー太のお店の名前は、<働くメスねずみのためのチーズ屋さん>なんですから。

nezumi_blue_dot.gif「ええ、そうです。だってオスねずみだって、チーズを食べるじゃないですか」
「そりゃそうだけど。でも、ウチの店の名前は......」
「だから、もう1軒お店を出すんですよ」
「ああ、そっか。それは分かったけど、チュー子ちゃんは、なんでオスねずみを狙った方がいいと思うの?」
「お客さんたちに聞いたんですよ。ウチのチーズをオスねずみに分けてあげると、結構喜ばれるんですって。オスねずみの中にも、若さを維持したいっていうねずみもいるんですね。それに、彼氏とか旦那さんにも若さを維持してもらうために食べさせてるっていうお客さんも結構いますよ」
「へぇ~、そうなんだ」
「そうなんですよ。でも、ウチのお店の名前じゃ、オスねずみは来てくれないじゃないですか。でも、せっかく人気が出てきたお店の名前を変えるわけにはいかないでしょうし。だから、もう1軒出せばいいかなって思ったんです」
「確かに、それはいいかもしれない」

お客さんが増えたおかげで、もう1軒お店を出すくらいの資金は貯まっています。それに、オスねずみがお客さんなら、メスねずみよりもいっぱい食べますから、メスねずみよりもたくさん買ってくれそうです。

chuta_pencil135_151.jpg「そうですよ。やってみましょうよ」
「そうだね。でも、その前に、リサーチが必要だ」

チュー太は、今のお店を始める前も、おチューさんに頼んでリサーチしました。その時にリサーチの大切を実感しましたから、今回もリサーチすることを忘れません。

第9章 これまでと違うタイプのお客さんを増やす際の注意点<後編>へ続く 
※2012年5月11日(金)公開!

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これまでチュー太が学んだこと

第1章 新しい事業・商品を作るときは、最初に「誰のためにビジネス」をするのか考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをよく知る。リサーチしないと戦略は立てられない。
第3章 ターゲットを絞り込み、ターゲットのためのサービス提供で顧客満足度を上げる。
第4章 良い商品でも特徴を伝えなければ売れない。キャッチコピーで差別化を図る。
第5章 売上と利益の関係を考える。やみくもに固定費、変動費を抑えればいいわけではない。
第6章 売上拡大にはペネトレーション戦略(広告などで一気に認知を広げる)とスキミング戦略
     (メディアを選択しゆっくりと認知を広げる)がある。特徴をよく理解し戦略を立てる。
第7章 質問し提案することでお客さんの満足度を上げる。ニーズやウォンツは、ただ聞くのではなく
     「こうじゃないか、ああじゃないか」と多くの仮説を立てながら質問することが重要。
第8章 お客さんとのコミュニケーションはニーズ、ウォンツを知る機会であり、
     信頼関係を築くための大切な機会。積極的に増やすようにする。