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05.11.12

第9章 これまでと違うタイプのお客さんを増やす際の注意点<後編>

前回までのお話
チーズ職人として独立、お店を開いたチュー太は、働くメスねずみのために天然素材100%でカロリーがあまり高くないチーズを販売しました。お客さんとのコミュニケーションを重視し、お客さんに合わせたチーズの食べ方を提案したり、料理教室を開いたりしていくうちにお客さんがどんどん増えていったため、アルバイト店員のチュー子ちゃんを雇いました。そのおかげでチュー太はチーズ作りに専念できるようになり、もっと多くのチーズを作れるようになりましたが、新しいタイプのお客さんを見つけないとこれ以上、お客さんが増えそうにありません。そこでチュー子ちゃんがオスねずみをお客さんにすることをチュー太に提案しました。 第1章からご覧になる方はこちら

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chuta_pencil135_151.jpg第9章<後編>

チュー太とチュー子ちゃんは、次の日から早速リサーチを開始しました。お店に来るメスねずみのお客さんたちにアンケート用紙を渡して、お客さんの知り合いのオスねずみに答えてもらうことにしたのです。オスねずみに答えてもらったアンケート用紙を持って来てくれたお客さんには、割引サービスします。だから、お客さんたちは、みんなアンケート用紙を持って行ってくれました。

そして、2週間後には、たくさんのアンケート用紙が集まりました。チュー太とチュー子ちゃんは、手分けしてアンケート用紙を集計しました。すると、チュー子ちゃんがお客さんたちから聞いていた通り、<デイリーフレッシュパックチーズ>の特長は、一部のオスねずみにかなりウケることが分かりました。

ただし、チュー子ちゃんがお客さんから聞いていたのとは、ちょっと違うことも分かりました。それは、年齢層です。チュー子ちゃんがお客さんたちから聞いていた話は、お客さんたちと同じ歳くらいの若いオスねずみのことでした。アンケートの結果を見ても、若いオスねずみにも、<デイリーフレッシュパックチーズ>は魅力的なようです。でも、若いオスねずみは、<デイリーフレッシュパックチーズ>も良いのですが、現実的には安くて量が多いチーズの方がもっと魅力的だと考えていることが、アンケートの結果で分かったのです。

でもその代わり、別の年齢のオスねずみが、<デイリーフレッシュパックチーズ>に非常に強い魅力を感じていることが分かったのです。それは、中年のオスねずみです。中年のオスねずみは、若いオスねずみほどたくさん食べません。だから、量よりも味を重視していますし、お金があるので少々値段が高くても気にしないのです。しかも若さを維持できるチーズなら、かなり値段が高くても買うと答えています。

このアンケート結果を見て、チュー太はオスねずみ向けのお店を出すことを決心しました。そして、オスねずみ向けに、新たに商品を開発することにしまいた。これまでの<デイリーフレッシュチーズ>よりも、もっとおいしいチーズを開発するのです。少々値段が高くても気にしない中年オスねずみがお客さんなら、もっといい材料を使ってもっとおいしいチーズが作れます。チュー太は腕のいいチーズ職人ですから、おいしいチーズを作るのはお手のものです。だから、たった1週間で狙い通りのチーズを開発できました。

nezumi_green_road.gifでも、もっとすごいのが、チュー子ちゃんです。チュー子ちゃんは、チュー太が新しいチーズを開発している間、新しいお店探しをしていたのですが、驚くべきことに1週間でとてもいい場所を探し出しただけではなく、あっという間に工事の手配をして、あと1週間でお店をオープンさせる段取りを付けたのです。

「チュー子ちゃん、すごいね」
その報告を聞いたチュー太は、驚いて眼を丸くしながら、チュー子ちゃんを褒めました。
「たまたまですよ」
チュー子ちゃんは、恥ずかしそうに謙遜しています。

「ところでさ、新しいお店の名前は、どうしようか」
「そうですねぇ。<働くオスねずみのためのチーズ屋さん>じゃ、大人のオスねずみ全員のためのチーズ屋さんってことになっちゃいますもんね」
「だよねぇ~。でも、だからって<オジサンねずみのためのチーズ屋さん>じゃ、よけいに変だもんねぇ~」
「変と言うか、オジサンねずみが全員<デイリーフレッシュパックチーズ>が好きってわけでもないですし......」
「それもそうかぁ~。確かにアンケートの結果では、オジサンねずみは<デイリーフレッシュパックチーズ>の特長が好きって答えていたパーセントが一番高かったけど、それでも20%くらいだけだったもんね」
「でしょう? オジサンねずみの中でも<デイリーフレッシュパックチーズ>を買ってくれるのは少数派なんですよ」

「じゃあ、どういうオジサンねずみが<デイリーフレッシュパックチーズ>を買ってくれるのかな?」
「そりゃあ、ちょっとお金持ちで、若さを維持したいオジサンねずみに決まってますよ」
「まあ、そうだろうねぇ~。でも、<ちょっとお金持ちで若さを維持したいオジサンねずみのためのチーズ屋さん>じゃ、いくらなんでも長すぎるよ」
「短くすればいいんじゃないですか?」
「そうだけどさ、どうやって短くするの?」
「そうですね。例えば......ちょいワルねずみっていうのは、どうですか?」
「ちょいワル?」

「そうですよ。ほら、ちょっとお金持ちで若ぶってるオジサンたちって、ちょっとワルぶってるじゃないですか。だから、ちょいワル」
「なるほど。じゃあ、<ちょいワルねずみのためのチーズ屋さん>ってこと?」
「そうです。そんでもって、商品名は<D.D.>ってことで」
「でぃーでぃー? 何それ」
「今度のチーズは、<デイリーフレッシュパックチーズ>のデラックス版じゃないですか。だから、デイリーのDとデラックスのDで、<D.D.>っていう愛称にするんですよ。ちょいワルねずみは、そういうの好きだと思いますよ」
「そうかなぁ~」
「絶対そうですって」
チュー子ちゃんは自信満々ですが、チュー太には<ちょいワル>も<D.D.>もよく分かりません。

「だって私、お客さんたちから聞いたんです。最近そういう若ぶってるオジサンねずみが増えてるって。しかも、そういうオジサンねずみって、若いメスねずみにモテたいと思っていて、やたらと海外のブランド品とか持ってるんですって。それに、最近たまに、そういうオジサンねずみのお客さんがウチの店にも来るんですよ。そういうお客さんと話をすると、カタカナの言葉ばっかり使うんですよね。しかも、何だか知らないけど、やたらと略してるんですよ。あのお客さんたちのことを考えたら、<D.D.>っていう名前はウケると思うんですよね」
「ふうん。そうなんだ」

nezumi_green_road.gifチュー太は、まだ納得していません。でも、他にいいアイデアは思い付かないし、チュー子ちゃんの言っていることは説得力があるような気がしたので、<ちょい悪ねずみのためのチーズ屋さん>という新しいお店で、<D.D.>という新しいチーズを売ることに決めました。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

最初に決めたターゲットだけを相手にビジネスを続けることは、基本中の基本です。ターゲット以外のお客さんを増やそうとすると、興味の対象が違う人たちを相手にすることになりますから、色々なことを言う必要があります。そのため、どうしても発信するイメージが分散してぼやけてしまい、商品の魅力が失われてしまうリスクがあります。

でも、最初に決めたターゲットだけを相手にビジネスを続けていて、順調にビジネスが拡大していったら、ある時点で成長が止まってしまいます。そうなったら、成長のために新たなターゲットを獲得することが必要になります。

ただし、最初に決めたターゲットと新たなターゲットが、まるで違う人たちということでは、やっぱりダメです。新たなターゲットは、これまで発信してきたイメージを変えないまま獲得可能な人たちである必要があります。

例えば、高級ブランドが少し低価格のディフュージョンブランドというものを追加することがあります。ディフュージョンブランドは、価格が少し安いだけで、イメージは親ブランドと同じです。そのようにすることによって、あまりお金を持っていない若者層にも買ってもらおうとしています。そして、出世したら親ブランドに乗り換えてね、という青田買い戦略なのです。このようにすることで、商品の魅力を失わないまま、お客さんを増やすことが出来るわけです。

それから、元々は女性専用ブランドだったものが、男性向けのラインナップを出すこともありますし、その逆の場合もあります。どちらの場合も、イメージは変えないことが鉄則です。

B2B企業の場合は、元々持っている技術の強みを活かして、従来とは違う業界向けの商品を開発したりします。この場合も、従来やっていたことと丸で違うことをするわけではありません。これによって新たなお客さんになってくれる企業は、従来の強みに魅力を感じてくれる人たちです。そういう意味では、業界が違っても、元々のお客さんと同じタイプのお客さんなのです。

このように、新たなターゲットは、従来の強みを変えずに、それを活かしたままで獲得できる人たちにしなければなりません。これを守らないと、自社の魅力が失われてしまうリスクが増大します。

しかも、無理に新たな強みを開発しようとすると、膨大なコストが必要となります。長期的に考えれば、新たな強みを開発することは必要です。でも、それは、あくまでも長期的に行うべきです。短期的に新たな強みを開発しようとすると、失敗する可能性がたいへん高くなります。

第10章 新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持が大切<前編>へ続く
※2012年5月15日(火)公開!

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これまでチュー太が学んだこと

第1章 新しい事業・商品を作るときは、最初に「誰のためにビジネス」をするのか考える。
第2章 お客さんのこと、競合のことをよく知る。リサーチしないと戦略は立てられない。
第3章 ターゲットを絞り込み、ターゲットのためのサービス提供で顧客満足度を上げる。
第4章 良い商品でも特徴を伝えなければ売れない。キャッチコピーで差別化を図る。
第5章 売上と利益の関係を考える。やみくもに固定費、変動費を抑えればいいわけではない。
第6章 売上拡大にはペネトレーション戦略(広告などで一気に認知を広げる)とスキミング戦略
     (メディアを選択しゆっくりと認知を広げる)がある。特徴をよく理解し戦略を立てる。
第7章 質問し提案することでお客さんの満足度を上げる。ニーズやウォンツは、ただ聞くのではなく
     「こうじゃないか、ああじゃないか」と多くの仮説を立てながら質問することが重要。
第8章 お客さんとのコミュニケーションはニーズ、ウォンツを知る機会であり、
     信頼関係を築くための大切な機会。積極的に増やすようにする。
第9章 新しいターゲットを定めるときは、従来の強みを生かしたまま獲得できるターゲットを定める。