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06.01.12

第11章 サービスすればいいってもんじゃない<後編>

前回までのお話
チーズの味がわかるねずみのための2軒のお店を経営するチュー太。それぞれのお店のアルバイト店員のチュー子ちゃんとチュー哉がお客さんとのコミュニケーションをうまく取ってくれたため、お得意さんがどんどん増えていきました。チュー哉の提案で、お得意さんに喜んでもらうため、ポイントのサービスを始めることになりました。それにより、お客さんは更に足を運ぶようになり、新規のお客さんも増えてきました。しかしポイント制は実質的には値引きになってしまうため、お客さんが増えても売上はあまり伸びません。それでもチュー太はがんばっている2匹のために、アルバイト代を値上げしようと考えました。

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第11章<後編>

チュー太がアルバイト代の値上げを考えていた矢先、そんなことを言っていられないことが起こってしまったのです。それは、週1回の会議でのことでした。チュー子ちゃんとチュー哉から、チュー太に同じ相談がありました。

「店長、ちょっと相談があるんです」
「どんなこと?」
「最近、何匹かのお客さんから同じことを言われてて、困ってるんです」
「何を言われてるの?」
「ポイントを貯めるのは面倒なんで、最初っから値引きしておいて欲しいって言うんですよ。どうせ値引きするんだから同じことでしょって」
「え? そんなことを言うお客さんがいるんだ」

チュー太にとっては、これは寝耳に水でした。今までは、値引きしてくれなどと言うお客さんは一匹もいなかったのです。それに、値引きなんかしたら、アルバイト代を上げるどころの話ではありません。

「あ、そういうお客さんは、僕の方にもいますよ。あれ、困るよね」
「そうなのよねぇ。それは出来ないんですよって言っても納得してくれないお客さんもいるし」
「そうだよね。しかも中には、ケチくさい店だとか、二度と来ないぞとか言うお客さんもいるし」
「えぇっ! そんなお客さんもいるの?」

チュー太にとっては、これもとても意外なことでした。なぜならば、チュー太のお店は値段が少し高いので、これまでは品のいい感じのお客さんばっかりだったからです。

nezumi_flower_road.gif「少しだけっすけど、いますよ」
「私の方にも、近いことを言うお客さんもいますね」
「そりゃあ困ったなぁ。ポイント制はお得意さんのためのサービスであって、全部の商品を最初っから値引きするのとは全然違うからなぁ」
「そうっすよねぇ」
「じゃあ、せっかく考えてくれたチュー哉くんには悪いけど、ポイント制は中止するっていうのは、どうかしら」
「チュー子ちゃん、それはダメだよ」
「なんでですか?」
「だって、お得意さんたちはポイント制を喜んでくれているでしょ? だから、それを止めたら、お得意さんたちを裏切ることになっちゃうよ」
「じゃあ、店長はどうするつもりなんですか?」
「それが分かってたら、とっくにそうしてるよ」
「言われてみれば、そうですねぇ」

「すみません。僕がポイント制なんて考えたせいで、こんなことになっちゃって」
「チュー哉、それは違うよ。ポイント制がいけないわけじゃないんだよ」
「そうよ。店長が言っていた通り、ポイント制はお得意さんたちに喜んでもらってるじゃない」
「でも、ポイント制のせいで、こんなことになっちゃったことは事実っすよね」
「そりゃそうだけど、だからってポイント制が悪いわけじゃないよ。みんなで解決策を考えればいいんだ」
「そうよ。そうしましょうよ。チュー哉くんはポイント制を考え付いたんだから、きっとまた何かいいアイデアを思い付くわよ」
「うーん、そうかなぁ、自信ないなぁ」
「今すぐに思い付かなくてもいいよ。時間のある時に、ゆっくり考えてくれればいいからさ」
「でも店長、そんなにゆっくりしてらんないですよ。値引きしてくれっていうお客さんは、最近だんだん増えてきてるんですから」
「そうっすよ。ゆっくりしてらんないっすよ」
「分かった分かった。じゃあ、みんなで急いで考えることにしよう。でも、今日はもう遅いから、明日以降にしような」
「はーい」

nezumi_flower_road.gif急いで考えようとは言ったものの、チュー太にはどうすればいいのか全く見当も付いていません。しかも、次の日になっても次の次の日になっても、そのまた次の日になっても、何も思い付きませんでした。それはチュー太だけではなく、チュー子ちゃんもチュー哉も同じらしく、何も言ってきません。このままでは、値引きを要求してくるお客さんが増えるばかりです。

焦りを感じたチュー太は、仕込みの仕事に集中できません。だから、気分を落ち着かせるために、お店の周りを散歩することにしました。
すると、向こうからおチューさんが歩いてくるのが見えました。チュー太は、今こそおチューさんに相談すべき時だとひらめきました。

チュー太は急いでおチューさんを呼び止めました。そして、ポイント制について困っていることを、おチューさんに説明しました。おチューさんは、ふんふんと言いながら真剣な顔でチュー太の説明を聞いていました。そして、説明を聞き終えると、おチューさんは、それだけ? と言いました。

「それだけって、それだけですけど、でも、どうやったら解決することが出来るのか、僕には全然分からないですよ」
「そんなの簡単なことじゃない」
「簡単?」
「そう、簡単なことよ」
「どうすればいいんですか?」
chuta&flower190_144.jpg「ポイントを貯めたら値引きするっていうのがいけないのよ。だって私たちは、値引きしてもらいたいわけじゃなくて、おいしいチーズが食べたいんですもの。だから、ポイントを貯めたら、値引きするんじゃなくて、商品をプレゼントすればいいのよ。もっと言えば、売っているチーズじゃなくて、ポイントを貯めなきゃ手に入らない特別なチーズがもらえるんだったら、すごく嬉しいわね」
「なるほどっ!」

またしても、おチューさんに助けられたチュー太なのでした。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

ポイント制の値引きサービスで成功している会社は、たくさんあります。でも、競合他社も同じサービスを開始したら、値引き合戦になってしまいます。人口減少時代に値引き合戦になったら、絶対に儲かりません。値引き合戦になっても儲かっていたのは、人口が増えているおかげで、どこの企業もお客さんが増えていた頃のことだけです。

それに、そもそも値引きサービスが適さない会社も少なくありません。少々値段が高くても構わないというお客さんが多い場合、値引きはあまり意味がないでしょう。そういうお客さんは、値段が安いことじゃなくて、他のことを望んでいるということでしょうから、そちらのサービスを手厚くすべきなのです。

出来るだけ値引きした方が良いと考えている会社が少なくありませんが、そうじゃない場合もたくさんあるのです。例えば今は、お金よりも時間を大切にする人が増えています。仕事でも遊びでも、やらなきゃいけないこととやりたいことが増えたので、時間が足りなくなってきたのです。そのため、時間を節約するための商品やサービスが、少々高くても売れるようになってきています。

それに、これだけ不況が続いても、少々高いレストランは相変わらずありますし、少々高い洋服も売れています。しかも、そういうお店は、お金持ちだけが利用しているわけではありません。普段は安い居酒屋に行っている人でも、デートの時には少々高いお店に行きます。普段は3000円のジーパンを履いている人でも、デートの時は少々高い服を着ます。

また、自分のことは自分で責任を持つという考えの人も増えています。そういう人は、歳をとっても人の世話にはなりたくないと考えています。だから、若さと健康を維持するためなら、少々高い商品やサービスにもお金を出します。

以上のように、なんでもかんでも安くすればいいとは限らないということです。安ければ喜ぶ人もいますが、そうじゃない人もいるのです。
つまり、ターゲットによって、提供すべきサービスの内容が変わるということです。良かれと思って導入したサービスが、悪い結果になることだってあるのです。どういうサービスをするのかは、お客さんのことをよく考えて決めなければ失敗します。

それに、誰かにプレゼントする際も、花束をあげれば絶対に喜んでもらえるわけではありません。花束をプレゼントするよりも、食事をおごってあげた方が喜ぶ人は、たくさんいます。誰にあげても絶対に喜ぶプレゼントなんて、存在しないのです。喜んでもらうためには、相手の好みをよく考える必要があります。お客さんに対するサービスも、それと同じことなのです。

第12章 信念は絶対に曲げない<前編>へ続く
2012年6月5日公開!

チュー太が売上を伸ばすために学んだマーケティング・ワンポイント