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06.05.12

第12章 信念は絶対に曲げない<前編>

前回までのお話
ねずみのチュー太はチーズの味がわかるねずみのためのチーズ屋さんを2店オープンさせました。お客さんとのコミュニケーションを大切にし、多くのお客さんに来てもらえるようになりました。お得意さんに喜んでもらおうとポイント制を導入しましたが、ポイントを貯めるのが面倒なので最初から値引きしてほしいというお客さんが出てきました。困ったチュー太はお得意さんであるおチューさんに相談しました。おチューさんからは、自分たちが求めているのは値引きしてもらうことでなく、おいしいチーズを食べられること。ポイントで手に入る特別なチーズを提供してはどうかとアドバイスをもらい、またおチューさんに助けられたチュー太でした。  第1章からご覧になる方はこちら

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第12章<前編>

chuta&cheese152_125.jpgチュー太は次の日から早速、ポイント制のための新しいチーズ作りを始めました。今回開発するチーズは、売るためのものではありません。プレゼント専用です。無料でプレゼントするのですから、一匹のお客さんに対して、たくさんの量をあげる必要はありません。チュー太のお店のお客さんたちのことを考えれば、たくさんあげるよりも、少しでいいから本当においしいチーズの方が良いでしょう。

だからチュー太は、超高級な天然素材を使うことにしました。そうすれば、本当においしくて、しかも低カロリーなチーズが作れます。これを売ろうとしたら、目玉が飛び出るくらいの値段になってしまうでしょう。でも、プレゼントだから、一人分はちょこっとだけで大丈夫です。そして、ちょこっとなので、一人分の原価はさほど高くならずに済みます。

10日くらい試行錯誤して、納得のいくチーズが出来ました。チュー太は腕のいい職人ですが、今回出来上がったチーズは、これまでチュー太が作ったチーズの中でも、間違いなく一番おいしいチーズです。

だから、今日からはポイント制による値引きサービスは中止です。その替わりに、出来上がった新しいチーズをプレゼントするのです。
でも、どうしても値引きの方がいいというお客さんもいます。そういうお客さんには、今回だけは値引きサービスをしてあげました。そういうお客さんは、「今回だけですよ」と言うと、嫌な顔をしました。もしかしたら、そういうお客さんは、もう来てくれないかもしれません。でも、チュー太はそれでいいと思っていました。なぜならば、チュー太のお店は、少しでも安くチーズを買いたいねずみのためのお店ではなく、本当のチーズの味が分かるねずみのためのお店だからです。

そういう意味で言えば、ポイント制による値引きサービスは、本来のお客さんのためのサービスではなかったのです。だから、ポイント制の値引きサービスによって、本来のお客さんとは違うねずみを呼び寄せてしまうことになっていました。その結果、値引きを要求するお客さんが出てきてしまったのです。

チュー太は、そういうお客さんは来てくれなくても構わないと考えているのです。チュー太にとっては、本当にチーズの味が分かるお客さんだけが来てくれれば、それで十分なのです。実際、チュー太のお店には、そういうお客さんの方がたくさんいます。だから、値引きサービスの替わりに、特別なチーズのプレゼントになったことを喜んでくれるお客さんの方が、圧倒的にたくさんいました。

そして、特別なチーズの反響は、すぐにありました。そのチーズを食べたお客さんたちの残らず全員が、「おいしい!」と感激してくれたのです。だから、お客さんたちは、以前にも増して一生懸命にポイントを貯めるようになりました。つまり、以前よりもチュー太のお店でチーズを買ってくれるようになったということです。

値引きサービスを止めたことで、お客さんの数は少し減りました。でも、売上は減っていません。特別なチーズのプレゼントのおかげで、お得意さんたちがそれだけたくさん買ってくれるようになったのです。

お客さんの数が減ったので、値引きサービスをする前と同じように、ゆっくりと接客することが出来るようになりました。そのことも、お得意さんたちを喜ばせました。でも、単に以前と同じように戻ったわけではありません。特別なチーズのプレゼントを始めたことで、以前よりもお客さんたちとのつながりが強くなったのです。

nezumi_green_flower.gif特別なチーズのプレゼントを始めてから少し経った頃、<ちょい悪ねずみのためのチーズ屋さん>の方に、一匹の立派な紳士ねずみのお客さんが来て、チュー子ちゃんに尋ねました。

「この前ポイントでもらったチーズを売って欲しいんだけど、あれはいくらなのかな」
「申し訳ありません。あのチーズは売り物じゃないんです」
「じゃあ、いくらお金を出しても売ってもらえないってことかい? いくら高くても構わないんだけどね」
「すみません。私では分からないので、店長を呼んでまいります。少々お待ちいただけますか?」

紳士ねずみがうんとうなずいたので、チュー子ちゃんは大急ぎで<働くメスねずみのためのチーズ屋さん>の方に行きました。そして、チュー子ちゃんの話を聞いたチュー太も、チュー子ちゃんと一緒に大急ぎで<ちょい悪ねずみのためのチーズ屋さん>に行きました。

「お客様、大変お待たせいたしました。私が店長でございます。あのプレゼント用のチーズをお買い求めになりたいということで......」
「そうそう。いくらお支払いすれば、売ってもらえるのかな?」
「誠に申し訳ありません。そうおっしゃられましても、あのチーズは本当にプレゼント専用でして、値段を決めていないんです。ですので、いくら頂戴すればいいのか分からないんです」

「じゃあ、そこに並んでいるチーズの10倍ってことで、どうかな?」
「いえいえ、それはいくらなんでも高すぎます」
「じゃあ、5倍くらいかな?」
「おそらく、そのくらいだと思いますが、ちゃんと考えないと分かりません。それでは、まだ高すぎるかもしれないし、安すぎるかもしれません」
「じゃあ、6倍だったら問題ありませんね?」
「いえいえ、それは困ります」
「なんでかな? 6倍だったら、そちらが損をする心配はないってことじゃないのかい?」
「大変恐縮ですが、私どもは、むやみに高く売ろうとは考えていないのです。適正なお値段でご購入いただいて、お客様に末永くお付き合いいただきたいのです」

「うーむ、なるほど。では、仕方ないですな。でも、あのチーズは是非とも商品化してもらいたい。これも一匹の客からの要望なので、参考にしてもらえるかな?」
「ご理解いただきまして、誠にありがとうございます。ご意見は必ず参考にさせていただき、商品化について早速検討いたします」
「うん、楽しみにしているよ。では」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」

チュー太の後ろで話を聞いていたチュー子ちゃんも、あわてて頭を下げました。そして、ちらっと横を見たら、チュー太がまだ頭を下げたままだったので、自分も頭を下げ続けました。

第12章 信念は絶対に曲げない<後編>へ続く
2012年6月8日公開!