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06.08.12

第12章 信念は絶対に曲げない<後編>

前回までのお話
ねずみのチュー太は、チーズの味がわかるねずみのために「働くメスねずみのためのチーズ屋さん」と「ちょいワルねずみのためのチーズ屋さん」を経営しています。お客さんとのコミュニケーションを大事にしてきたため、お得意さんを増やし、売上も伸びてきました。お得意さんのための特別なサービスとして、ポイントを貯めてもらうことのできる高級で特別なチーズを作りました。あるとき、来店した紳士ねずみのお客さんから金額をいくらにしてもいいので、その特別なチーズを売ってくれるよう頼まれました。
第1章からご覧になる方はこちら

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第12章<後編>

chuta_pencil135_151.jpg紳士ねずみがお店を出て行って10秒くらい経ってから、ようやくチュー太は頭を上げました。それを見たチュー子ちゃんも、頭を上げました。そして、チュー太に言いました。

「店長、すごいですね」
「え? 何が?」
「だって私、てっきり6倍の値段で売るのかと思ったんですもの」
「そういうわけにはいかないよ。ウチの店は、オープンした時からずっと、むやみに高い値段にはしないって方針で続けているからね」
「ふうん、そうなんだぁ、すごいですね。私、店長のこともこのお店のことも、ますます好きになっちゃいました」
「そっか」
チュー子ちゃんに褒められたチュー太は、照れくさくて前歯で床をガリガリやりました。

nezumi_wave_road.gif「ところで店長、あのプレゼント用のチーズ、本当に商品化するんですか?」
「そうだねぇ。どうしたもんかなぁ」
「何か、商品化できない理由があるんですか?」
「ほら、さっきのお客さんにも説明した通り、商品にするとなるとかなり値段が高くなっちゃうと思うんだ。そういう商品を売ると、お店のイメージが変わっちゃうんじゃないかと思ってさ」

「そうですか? 少なくとも<ちょい悪ねずみ>の方のお店だったら、大丈夫じゃないですか?」
「あ、そうか。<ちょい悪ねずみ>の方だけで売るっていう手もあるね」
「でも、私は<働くメスねずみ>のお店でも、大丈夫だと思うんですけど」
「そうなかぁ~」

「普通に売ったらダメかもしれませんけど、完全予約制販売だったら大丈夫じゃないですか?」
「あ、なるほど。その手があったか」
「そうですよ。それだけ高い値段のチーズは、お金持ちのねずみ以外は、しょっちゅう買うわけにはいきませんからね。お祝い事の時のご馳走とか、誰かにプレゼントする時とか、そういう特別な時にしか買いませんよ。だから、急に買うわけじゃないので、完全予約制でも問題ないです。それに、他の商品と一緒にお店に並べるわけじゃないから、お店のイメージは変わらないと思います」
「そうだね。そうしよう!」
「店長、商品化するんだったら、商品名を考える必要がありますね」

「あ、そうだね。どんな名前がいいかなぁ」
「実は、もう考え付いちゃったんです」
「え? もう?」
「はい。今度のチーズは、<D.D.>よりも、さらにデラックスなわけですよね?」
「そうだね。だから何? まさか、<D.D.>のデラックスってことで、<D.D.D.>じゃないだろうね?」
「それじゃ呼びにくくなっちゃいますよ。それに、それじゃ正式名称は、<デイリーフレッシュパックチーズ・デラックス・デラックス>になっちゃうじゃないですか」
「じゃあ、どうするの?」

「<D.D.>の特別バージョンってことで、<D.D.プレミアム>です」
「お、なんか高級感があるね」
「ちょい悪ねずみは、こういうネーミングが好きだと思いますよ。それに、働くメスねずみだって、特別な時はプレミアムが好きですからね」
「なるほどー。じゃあ<D.D.プレミアム>で決まりってことで」
「それと」
「まだ何かあるの?」
「だって、<D.D.プレミアム>は、完全予約制にするんですよね? しかも、お祝い事とかギフト用ってことですよね?」
「そうだけど?」

「だから、お客さんの名前とか、何かメッセージとかを、チーズの表面に書いてあげたら喜ばれますよ。<D.D.プレミアム>とは色の違うチーズを溶かして文字を書くって、出来ますよね?」
「そんなの簡単に出来るよ。チュー子ちゃん、ナイス・アイデアだよ!」
「ありがとうございます。あとは、値段を決めるだけですね」
「あ、それが残ってたな」
「値段を決めるのは店長じゃなきゃ出来ませんから、お任せしましたよ」
「やれやれ、店長はつらいよ」
「そんな愚痴を言ってないで、さっさと決めてくださいね」
「はいはい」

nezumi_wave_road.gifこうしてチュー太のお店には、また新しい商品と新しいサービスが誕生しました。チュー太のお店は、少しずつですが確実にいいお店になっているようです。

第13章 売上よりも利益率が重要<前編>へ続く   

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

創業時には、企業理念について、かなり深く考えたと思いますが、企業理念はよほどのことがない限り、簡単に変えるべきではありません。隣の芝は青く見えるものなので、よその会社を見て真似したくなることもあると思います。でも、ほいほいと企業理念を変えると、大抵の場合は失敗します。信念を持ってビジネスを続けるべきなのです。

そうすることが、お客さんからの信頼を築くための必要不可欠の条件です。そして、そうすることが、従業員からの信頼を築くための必要不可欠の条件でもあります。企業理念を変えないことは、お客さんや従業員に対する約束です。約束は絶対に守らなければなりません


そういうことを考えずに、自社の企業理念に反すること、つまり目新しいことを計画したがる企業もあります。でも、そういう企業の計画は、どんなに優れていようが成功する可能性は低いでしょう。なぜなら、そういう計画は、お客さんや従業員との約束を破ることになるからです。

例えば、高級感を売りにしていた企業が、もっとたくさん売りたいと思って、急に値段を安くしたら、かえって売れなくなります。なぜなら、その企業のお客さんは、高級品が欲しくて買っていたのですし、その企業の従業員は、高級品を提供することに誇りを感じていたからです。だから、元々のお得意さんは来なくなりますし、従業員はやる気を失ってします。

今は、人口の減少だけではなく、色々なことが急激に変化しています。だから会社も、積極的に変化する必要があります。でも、どんどん変えるべき部分がある反面で、変えてはいけない部分があるのです。そして、最も変えてはいけない部分が、企業理念です。だから、それらを変える時は、かなり慎重に検討する必要があります。

ずっとお付き合いしていた恋人を捨てて、急に全然別のタイプの人とお付き合いしようとしても、大抵の場合はうまくいきません。企業理念を変えるということは、それと同じことなのです。

これまでにチュー太が学んだマーケティング・ワンポイント