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06.19.12

第14章 いいモノといいコト<前編>

前回までのお話
腕のいいチーズ職人のチュー太はチーズ屋さんを経営しています。お客さんとのコミュニケーションを大切にし、売上を少しずつ伸ばしてきました。しかし下積み時代に一緒に修業を積み、同じ頃に独立をしたチュー輔はお店の経営に失敗し行方不明です。チーズ作りを1匹でやることに限界を感じ始めているチュー太は、チュー輔とお店をやっていけたらどんなにいいだろうと考え、チュー輔を捜し始めます。しばらくしてお客さんである紳士ねずみが、隣の国にチュー太と似た味のチーズを作る職人がいると教えてくれました。そこでチュー太はチュー輔宛に手紙を書きました。チュー太はどきどきしながら手紙の返事を待っています。
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第14章<前編>

今日はいよいよ、貿易商の紳士ねずみが隣の国から戻ってくる日です。つまり、チュー輔からの手紙が届くかもしれないということです。それと同時に、例の職人ねずみがチュー輔ではなかったと分かるかもしれないということでもあります。

チュー太は、朝一番からドキドキしながら、手紙が届くのを待っています。とてもじゃありませんが、仕事どころではありません。実際にチュー哉からも、「そんなにソワソワしてるんじゃ仕事にならないでしょうから、どこか散歩でもしてきたらいいんじゃないっすか?」と冗談半分に言われてしまったほどです。

でも、何かしていないと余計に落ち着かないので、いつものように仕込みの仕事をしています。そして仕事をしながら、これまでの毎日と同じように、もしかしたらこうかも、いやひょっとしたらこんなことかも、と手紙の内容をあれこれ想像しています。だから、全然仕事がはかどりません。

そうこうしているうちに、閉店の時間が近づいてきました。だからチュー太は、今日はもう手紙は来ないのだと思いました。考えてみれば、帰ってきた当日に手紙を届けてくれるとは限りません。むしろ、明日以降になるのが普通でしょう。

ところが閉店間際になる頃、貿易商の紳士ねずみからの使いのねずみがやってきました。使いのねずみは、1通の手紙と1つのチーズを持ってきました。そして、紳士ねずみからの「私は何も知らないので、全ては手紙を読んで考えて欲しい」という伝言を残して帰っていきました。

チュー太は、封筒を開けるのももどかしく、急いで手紙を取り出しました。そして、むさぼるように手紙を読み始めました。

nezumi_green_flower.gifチュー太さまへ

色々ありすぎて何から書けば良いのか分かりませんが、まずは自分が誰なのかを名乗りましょう。私は、貴殿が予想した通り、貴殿の元同僚のチュー輔です。ちゃんと生きているので、安心してください。

私は今、隣の国のチーズ屋で修行をしています。皆さんの前から姿を消してから今までの間、ずっとここで修行を続けています。つまり、修行のやり直しです。私は貴殿と一緒に修行していた頃、貴殿ほど真面目に修行をしていませんでした。あの頃の私は、チーズ作りの腕はほどほどでも、アイデアさえあればいくらでも稼げると思っていたのです。

でも、それは間違いでした。チーズ屋にとっての商品は、やっぱりチーズです。チーズがしっかりしていなければ、その他のサービスがいくら良くでもダメなのです。

昔、親方が言っていたことを覚えていますか? いいモノを作っただけじゃ売れない。親方は、そう言っていました。私はこの言葉の意味を勘違いしてしまったのです。私は、いいモノを作らなくても大丈夫だ、と思い込んでしまっていたのです。

当たり前ですが、そんなことはありえません。だから私の店は、失敗したのです。確かに、いいモノを作っただけじゃ売れません。でも、それはいいモノを作るのは当然のことで、その上で他の点でも努力する必要があるということだったのです。

だから私は、再度一から修行し直すことにしたのです。しかも、自分のことを誰も知らない場所で。そうしないと、どうしても知り合いのねずみたちに甘えてしまうと思ったからです。

そのおかげで、私はチーズ作りの腕前をかなり上げることが出来ました。私の作ったチーズを、この手紙と一緒に送りますので、是非試食してみて欲しい。チーズにこだわる貴殿の舌を満足させる出来栄えだったら、最高に嬉しく感じます。

そして、それは、私の修行が終わりを迎えることを意味しています。同時に、私がそちらの国に帰ることも意味しています。私がビジネスに失敗したことで迷惑をかけてしまったねずみたちへの恩返しをするために、私はそちらの国に帰らなければならないのです。

チュー太さま、私が修行を終えて良いかどうかの判断を、是非とも貴殿に委ねたい。貴殿の舌で、その判断を下してください。私の作ったチーズが、貴殿の舌を満足させることが出来なかったら、私はまだそちらの国には帰れません。でも、誇り高き貴殿の舌は、温情で甘い判断を下さないものと信じています。

ずっと音沙汰なしにしていたのに、いきなり勝手なことを依頼して申し訳なく思っています。でも、貴殿以外に、この判断を頼める相手は、私にはいないのです。だから、本当に恐縮ですが、私の願いを聞いてください。

何卒よろしくお願い致します。

                                        貴殿の心の友 チュー輔より

nezumi_green_flower.gifチュー太は、このチュー輔からの手紙を何度も何度も読み返しました。最初に読んだ時は、チュー輔が生きていたことの喜びでいっぱいでした。しかもチュー輔がこちらの国に帰ってくるつもりでいることが分かり、天にも登る気持ちになりました。

でも、何度か手紙を読み返すうちに、チュー輔がどんな気持ちで再び修行に打ち込んでいたのかが分かり、胸が苦しくなりました。さらに読み返すと、今度は自分に委ねられた判断の重さが、ずしんと重く感じられるようになりました。

チュー太は、手紙と一緒に届けられたチーズを見つめました。しばらく見つめてから、意を決して食べてみることにしました。

チュー輔の手紙に書いてあった通り、この判断は厳しく下す必要があります。勿論、間違いは許されません。でも、チュー太は腕のいいチーズ職人です。一口食べれば、そのチーズが本当に良いものかどうかは、すぐに分かります。

だからこそ、チュー太はそのチーズを食べるのが怖かったのです。一口食べたら、すぐに自分が今後のチュー輔の運命を左右する決断をすることになるからです。

チュー太は、慎重にチーズの包装を開けてみました。見た目は特に何の変哲もない普通のチーズのようです。でも、チーズの良し悪しは見た目では分かりません。チュー太はゆっくりとチーズを自分の口に運びました。そして、目をつぶってチュー輔のチーズを味わいました。

チュー輔のチーズは、一噛みしただけで、口の中いっぱいに豊かな香りを広げました。そして、舌の上に芳醇な味わいをもたらしました。チュー太には一瞬で、チュー輔のチーズが一流のものであることが分かりました。

chuta_jump.jpgつまり、チュー輔に合格の手紙を送ることが出来るということです。チュー輔に帰って来いと言えるのです。チュー太は、心から安堵しました。そして次に、チュー輔が帰ってくることを想像して、とても嬉しくなりました。

チュー太はすぐに、チュー輔への手紙を書くことにしました。

第14章 いいモノといいコト<後編>へ続く
2012年6月22日公開!


チュー太がこれまでに学んだマーケティング・ワンポイント