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06.22.12

第14章 いいモノといいコト<後編>

前回までのお話
腕のいいチーズ職人のチュー太はチーズ屋さんを経営しています。売上を少しずつ伸ばしてきましたが、そろそろ1匹でのチーズ作りに限界を感じてきました。お店経営に失敗し、今は隣の国で修業しているチュー輔に自分のお店で働いてもらいたいと思っています。お客さんのつてで、チュー輔からの手紙とチュー輔が作ったチーズを受け取りました。チュー太に認めてもらえる味であれば修行を終え、チュー太がいる国へ帰るつもりだというのです。チュー輔の運命を左右する決断を迫られたチュー太は緊張しながらチーズを口に運びます。その味は豊かな香り、芳醇な味わいの一流のチーズでした。
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第14章<後編>

心の友 チュー輔さまへ

貴殿が元気でやっていると知って、私は心から喜んでいます。そして、貴殿がこちらに戻ってくることは、さらに嬉しいことです。

貴殿のチーズを味合わせてもらいました。かなり厳しい修行をしたようですね。貴殿のチーズは、掛け値なしに一流です。貴殿のチーズを食べたら、親方だって腰を抜かすほど驚くことでしょう。

そういうわけですので、一刻も早く修行を終えて、こちらに戻ってきてください。私は貴殿の帰りを、首を長くして待っています。と言いますのも、私の店は、深刻な人手不足なのです。私しかチーズを作れる職人がいないので困っています。でも、腕のいいチーズ職人は、簡単には雇えません。だから、ずっと私一匹で何とかしのいできました。

でも、そろそろそれも限界です。私にもしものことがあれば、店を閉めるしかありません。それに、商品開発を一匹でやり続けるのも、限界が近づいています。だから、もし貴殿さえ良ければ、是非とも私に協力していただきたいのです。

自分で言うのも何ですが、私の店には筋のいいお客さんがたくさん付いています。チーズの味を本当に分かってくれるお客さんばかりです。だから、貴殿をがっかりさせるようなことは、絶対にないと自負しています。それに、二匹の従業員が働いてくれているのですが、その二匹はとても働き者です。この二匹も私の店の自慢の一つです。貴殿とも、きっと気が合うことでしょう。

ただし、私の店で働いて欲しいというのは、私の勝手な願望です。ですので貴殿が一匹で再スタートしたいのであれば、私はそれを応援します。私の事情は気にせず、自由に貴殿のしたいようにしてください。

繰り返しになりますが、貴殿のチーズは一流です。必ずや貴殿のお店は成功するものと確証します。

お戻りの際の道中は、十分に気をつけてください。万が一のことがあったら、せっかくの修行が無駄になってしまいます。

では、貴殿の帰還を心よりお待ち申し上げます。

                                      貴殿の永遠の友 チュー太より

nezumi_yellow_flower.gifチュー太は手紙を書き終えると、すぐにチュー子ちゃんに頼んで、紳士ねずみの貿易会社に持っていってもらいました。チュー輔の手紙を届けてくれた使いのねずみによると、今度は3日後にすぐにまた隣の国に行くということだったからです。だから、確実に手紙をチュー輔に届けてもらうためには、一日でも早くお願いした方がいいと思ったのです。

貿易会社から戻ってきたチュー子ちゃんは、彼らが今度こちらの国に戻ってくるのは1ヵ月後だと教えてくれました。この前は2ヶ月待たなければなりませんでしたが、今度は1ヶ月だけです。でも、チュー太には今度の方が待ち遠しく感じます。なぜならば、今度はチュー輔が戻ってくることが分かっているからです。良いことを待つのは、どういう結果になるのかが分からないことを待つよりも、待ち遠しいものです。

「店長、今日は何だか嬉しそうっすね」
「そうか?」
「そうっすよ。何かいいことでもあったんすか?」
「これからあるんだよ」
「何があるんすか?」
「実は、僕の古くからの親友が、久しぶりに隣の国から戻ってくるんだ」
「へぇ~、それは嬉しいっすね」
「だろう? しかも、もしかしたら、ウチの店で働いてくれるかもしれないんだ」
「あ、その親友さんもチーズ職人なんすか」
「そうなんだよ。しかも、一流のチーズ職人だ」
「じゃあ、その親友さんが来たら、店長と二匹体制になって、鬼に金棒ですね」
「まあ、そういうことだな。でも、ウチの店で働いてくれるかどうかは、まだ分からないんだけどね」
「働いてくれるといいっすね」
「そうだな。でも、こればっかりは彼自身の意思で決めることだからね。あ、そうだ。その彼が作ったチーズ、食べてみる?」
「え、あるんすか?」
「無きゃ食べられないだろ。ほら、これだよ」
「あ、いただきます」
「どうだ?」
「ちょっと待ってください。......。あー、こりゃうまいっすね。店長のチーズとどっこいどっこいじゃないっすか」
「だろう?」
「これ、チュー子さんにも食べさせてあげましたか?」
「あ、そうだな。チュー子ちゃんにも食べてもらわなきゃ」
「そうっすよ。もしかしたら、一緒に働くかもしれないねずみが作ったチーズっすからね」
「チュー哉の言う通りだな。じゃあ、早速<ちょい悪ねずみ>の店の方に持っていってあげることにするよ」

chuta_entrance123_129.jpgチュー太は店に向かって歩きながら、チュー子ちゃんとチュー哉とそしてチュー輔と自分の四匹で、一緒に働いているところを想像しました。それは、この上なく幸せな想像でした。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

日本の企業は、世界最高水準の技術を持っています。だから日本には、いいモノがたくさんあふれています。それは、いいモノがたくさん余っているということでもあります。そのため、いいモノを作っただけでは売れません。いいモノを作った上で、いいコトをする努力をする必要があるのです。日本は人口が減り始めましたから、今後はいいモノがもっと余るようになります。だから、今後はもっといいコトをたくさんする必要が出てきます。

例えば、気持ちのいい接客、素敵なBGM、クールなインテリア、しゃれたロゴマーク、様々な慈善活動。そのようなたくさんのいいコトが、お店の人気を支えている例も多く存在します。でも、いいコトだけしていれば、いいモノを提供しなくても良いというわけではありません。提供するモノが良い商品でなければ、やっぱり人気は出ないでしょう。つまり、いいモノといいコトがセットになって、初めてビジネスが成り立つのです。いいモノだけ、いいコトだけというのは、どちらもダメなのです。

日本はモノ作りが得意ですから、いいモノを作れば大丈夫と思っている会社がたくさんあります。でも、それじゃダメなのです。その上で、いいコトをする必要があります。そして、いいコトというのは、儲けること以外の活動であり、コミュニケーションです。みんなをいい気分にさせる活動とコミュニケーションです。そういうことが、とても重要になってきているのです。

第15章 価値観の一致が重要<前編>へ続く
※2012年6月26日公開!


チュー太がこれまでに学んだマーケティングのポイント