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06.26.12

第15章 価値観の一致が重要<前編>

前回までのお話
腕のいいチーズ職人のチュー太はチーズ屋さんを経営しています。売上を少しずつ伸ばしてきましたが、そろそろ1匹でのチーズ作りに限界を感じてきました。お店経営に失敗し、今は隣国で修業しているチュー輔に自分のお店で働いてもらいたいと思っています。チュー太のお店のお客さんで貿易商のねずみを介し、チュー輔からの手紙とチュー輔が作ったチーズがチュー太宛に届きます。チュー太に認めてもらえる味であれば修行を終え、チュー太がいる国へ帰るつもりだというのです。チュー輔の運命を左右する決断を迫られたチュー太でしたが、そのチーズは香りも味も一流のチーズでした。
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第15章<前編>

チュー輔の消息が分かり、しかもこちらの国に帰ってくることが決まったので、それを報告するために、チュー太は久しぶりに親方のところに行きました。チュー太の報告を聞いた親方は、チュー太と同様、大いに喜びました。親方は、良かった良かった本当に良かったと、涙をにじませながらしみじみと言いました。

チュー太は、チュー輔が作ったチーズを、親方のところに持ってきていました。どうしても親方にも、チュー輔のチーズを食べてもらいたかったのです。

一通り報告を終えたチュー太は、チュー輔のチーズを取り出して親方に差し出しました。親方はそれをじっくりと眺めてから、ぱくりと口に入れました。そして、しばらくは無言でチーズを味わっていましたが、みるみるうちに目が見開いていって、うまい! と大きな声で言いました。

そこでチュー太は、チュー輔に自分のお店で働いてもらいたいと考えていることを、親方に話しました。チュー太は、てっきり親方が手放しで喜んでくれるものと思っていましたが、そうではありませんでした。チュー太の話を聞いた親方は、急に難しい顔になって腕を組んでいます。

nezumi_flower_road.gif「チュー太、それはいいことかもしれないが、そうじゃないかもしれない」
「親方、それはどういうことでしょうか?」

「お前は今のチュー輔と、手紙のやり取りしかしていない。しかも、1回だけだ。それだけじゃ、今のチュー輔のことは、ほとんど分からないだろう? お前の話によると、どうやらチュー輔は、かなりの苦労をしたらしい。きっと今のチュー輔は、昔のチュー輔とは違うだろう」

「それはそうでしょうけど、昔のチュー輔よりも、いいねずみになっているんじゃないでしょうか。それにチーズ作りの腕前だって、昔とは比べ物にならないくらいになっています。その上チュー輔は、元々頭がいいですから......」

「お前の言う通りだろうな」
「じゃあ、何が問題なんでしょう?」

「真面目で頭が良くて、その上腕もいい。そういう職人ねずみは、一見、最高の職人に思えるよな?」
「はい。そうじゃないんですか?」
「いや、一般的には最高の職人だろうな」
「ええと、大変申し訳ありませんが、僕には親方が何をおっしゃろうとしているのかが分かりません」

「まあ、そうだろうな。お前はまだ、職人を雇ったことがないから、分からなくても仕方がない」
「親方、僕は何が分かっていないのでしょうか?」
「なあチュー太、真面目で頭が良くて、その上腕もいい職人ねずみは、大抵の店ではいい仕事をするよな?」
「はい。そう思います」

「じゃあ、そういう職人ねずみは、どんな店でも絶対にいい仕事をするか?」
「そうですねぇ。絶対とは言い切れないでしょうね」
「そうだろう? じゃあ、どういう店の場合だと、いい仕事をしない?」
「ええと、そうですね。例えば、その店で働いている他の職人ねずみとの相性が悪いとか、その店の親方との相性が悪いとか」
「そうだな」

「つまり親方は、今のチュー輔と僕の相性が合わないかもしれないとか、ウチの従業員たちと相性が合わないかもしれないとか、そういう心配をされているってことですね?」
「まあ、そういうことだ」

nezumi_flower_road.gif「おっしゃりたいことは分かりました。でも、チュー輔と僕とは相性が良かったし、チュー輔の性格を考えたら、ウチの従業員とも相性がいいと思うんです。何年も会っていないからって、性格はそんなに変わらないですよね?」
「だから、お前は分かってないって言ってるんだよ」
「え?」

「チュー太、よく聞け。相性と性格は、全然関係ないんだよ。例えば、オレとお前の性格は、まるで違うよな? でも、相性が悪いわけじゃないだろう?」
「はい、そうですね。親方と僕は、少なくとも僕は相性がいいと思ってます」
「オレだって、そう思ってるよ。だからさ、相性と性格は、全然関係ないんだよ。性格が全然違う者同士だって、相性がいい場合もある。逆に、性格が似てたって、相性が悪い場合もあるんだ」
「じゃあ、相性って、何によって決まるんでしょうか?」
「価値観だよ」
「カチカン?」

「どんなコトを一番大切に考えているかってことだよ」
「ああ、価値観ですね」
「そうだ。カネが一番大切だって考えてるヤツと、愛情が一番大切だって考えてるヤツとじゃ、相性が悪いだろう?」
「そりゃそうでしょうね」
「でもさ、愛情が一番大切だって考えてるヤツ同士だったら、性格が違ってても相性がいいと思わないか?」
「思います」
「ほら、そういうことだよ」

「なるほど。つまり、今のチュー輔が何を一番大切に考えているかってことが分からなければ、ウチの店に合うかどうかは分からないってことですね?」
「そうだ。しかも、何を一番大切に考えているかは、本人に質問しても分からないんだ」
「え? そうなんですか?」

chuta_pencil135_151.jpg「そうだよ。じゃあ、お前は何を一番大切に考えている?」
「ええと、そうですねぇ、何だろう? すぐには答えられません」
「ほら、そうだろう? 一番大切に考えているコトは、自分でもちゃんと分かっていないんだよ」
「じゃあ、どうしたらいいんでしょう?」

第15章 価値観の一致が重要<後編>へ続く  
2012年6月29日公開!

チュー太がこれまでに学んだマーケティングのポイント