TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第15章 価値観の一致が重要<後編>



06.29.12

第15章 価値観の一致が重要<後編>

前回までのお話
チーズ職人のチュー太は<働くねずみ>と<ちょい悪ねずみ>のための2軒のチーズ屋さんを経営し、1匹でチーズ作りをしていますが、1匹でのチーズ作りにはそろそろ限界を感じていました。一方、一緒に修行時代を過ごしたチュー輔はお店経営に失敗し、隣国で再度修行を積んでいます。チュー太はチュー輔に一緒にチーズ作りをしてほしいと手紙を書きました。その返事にはチュー輔が作るチーズをチュー太が認めてくれたときが修行を終えて帰国するときだと書かれていました。一緒に届けられたチーズをチュー太が口にすると、そのチーズは香りも味も良く、チュー太は一緒に働けるかもしれないことをたいへん喜びました。親方にそのことを報告すると、なぜか親方は厳しい顔をします。一緒に働くには同じ価値観でなければならないとチュー太に助言します。
第1話からご覧になる方はこちら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第15章<後編>

「じゃあ、お前は何を一番大切に考えている?」
「ええと、そうですねぇ、何だろう? すぐには答えられません」
「ほら、そうだろう? 一番大切に考えているコトは、自分でもちゃんと分かっていないんだよ」

「じゃあ、どうしたらいいんでしょう?」
「まずは、お前自身が何を一番大切に考えているかを、ハッキリ認識する必要があるな」
「そうですよね。でも、それって、どうやったら認識できるんでしょうか? なんだか難しそうな気がします」

「お前は最近、アルバイト代を上げたんだろう?」
「ええ、そうですけど、それが何か?」
「いいから答えろ。お前はなんでアルバイト代を上げたんだ?」
「それは、店の利益が増えたんで、アルバイト代を上げられる余裕が出来たからです」

「そうじゃないだろう? 利益が増えたとしても、バイト君たちがさぼってばかりいたら、お前はアルバイト代を上げたか?」
「いいえ、上げません。そうか、僕は彼らが一生懸命にがんばってくれているから、前々からアルバイト代を上げてあげたいと思ってたんでした」
「そこだよ。そこがポイントだ。お前は、バイト君たちがどういうことをした時に、特に一生懸命にがんばってると感じる?」

「そうですね。何だろう? あ、そうだ。いつもアルバイトの女の子が、店の前の道を掃除してくれてるんですけど、ウチの店の前だけじゃなくて、かなり広い範囲を掃除してくれるんです。そのおかげで、隣近所のお店から、しょっちゅうお礼を言われてるんですよね。お客さんからも、褒められてますし。それから、アルバイトの男の子の方は、ゴミ捨てをしてくれてるんですけど、彼もウチの店のゴミだけじゃなくて、隣近所のお店の分までゴミ捨て場に持っていってあげてるんですよ。どうせついでだからって言って。これも、隣近所のお店から感謝されてますし、お客さんから褒められてますね。そうことをしてくれているのを見ると、店の仕事をしてくれている時よりも、ずっと嬉しいですね」
「それが、お前が一番大切に考えていることだよ」

「確かに、そんな気がします。でも、僕は何を一番大切に考えているんでしょう?」
「なんだ、まだ分からないのか」
「すみません」
「お前が一番大切に考えているコトは、損得抜きで人様の役に立つってコトなんじゃないのか?」
「あ、言われてみれば、そうです。その通りです」

「だから、今のチュー輔もそれを一番大切に考えていたら、お前の店に合うってことだな」
「でも、チュー輔に、お前は損得抜きで人様の役に立つことを大切に考えているかって質問しても、無駄なんですよね?」
「全くの無駄ではないよ。ウチの店は損得抜きで人様の役に立つことを大切にしてるんだけど、君もそういう気持ちでウチの店で働いてくれるかっていう質問をするのは大切なことだよ。どこの店でも、そういう質問をするだろう?」

「そうですね。でも、そんな質問をしたら、そこの店で働きたいねずみは、嘘でもハイって答えますよね?」
「そうかもしれないけど、そんな嘘をついてその店で働いても、そのねずみはそういうことができないだろうから、評価されない。だから、一番損をするのは自分だな」

「なるほど。でも、店の方も困りますよね。最初から嘘って見抜いて、採用しないっていうのが一番いいと思うんですけど......」
「そのために、世の中には試用期間っていうものがあるんじゃないか。試用期間の間に、店側がそのねずみが店に合っているかを見極めるし、採用されたねずみも自分がその店に合うかを見極めるんだよ」
「そうか。いくら僕が、チュー輔が僕の店に合っているって思っても、チュー輔が合わないって思ったらダメですもんね」
「そういうことだな」

「親方、分かりました。とても勉強になりました。やっぱり親方は、ずっと僕の親方です」
「うん。お前も、ずっとオレの大切な弟子だよ」
「ありがとうございます」

「困ったことがあったら、遠慮せずにいつでも来いよ」
「はい、そうさせていただきます。チュー輔の件が落ち着いたら、どういう結果になろうが、二匹で挨拶に来させていただきます」
「うん、楽しみにしてるよ。がんばれよ」
「はい、がんばります」

chuta_jump.jpgチュー太は、親方のお店を出てから、お店の中にいる親方に対して深々と頭を下げました。そして、今のチュー輔は何を一番大切に考えているだろうと思いを巡らせました。でも、長い間ずっと会っていないチュー輔が考えていることは、いくら考えても分かりませんでした。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

相手の人と自分の相性も、会社と自分の相性も、価値観が一致しているかどうかで決まります。会社の価値観は、企業理念や人事評価基準やCSR活動の内容などに反映されています。ですので、社員を採用する際は、自社の企業理念や人事評価基準やCSR活動に賛同する気持ちを持っている人を選ぶべきです。業務内容や会社の規模や知名度などだけで会社を選ぼうとしている人は、採用すべきではないでしょう。そういう人は、どんなに優秀な人であっても、そのうちに会社が嫌になって辞めてしまうかもしれません。

これを裏返して考えると、社員としては、会社の価値観に共感する必要があるということになります。会社の価値観に共感できなければ、働くことの喜びを感じることができません。それに、大半の会社では、社員の多くが会社の価値観に共感して、多少なりとも愛社精神を持っているはずです。だから、会社の価値観に共感していない人は、周りの社員たちと力を合わせて働くことが難しくなってしまうでしょう。そうなると、成績が上がりませんので、ますます仕事がつまらなくなってしまいます。

また、会社とお客さんの相性も、価値観で決まります。会社と相性の良いお客さんは、その会社の大ファンになりますので、その会社の商品を喜んで買ってくれます。お客さんとそういう関係作りが出来ている会社は、とても儲かります。このことは、B2BだろうがB2Cだろうが変わりません。

そして、価値観がハッキリしない会社は、誰とも相性が合いません。価値観がハッキリしないのですから、八方美人の人と同じです。誰からも嫌われない代わりに、誰からも好かれません。だから、誰ともいい関係作りが出来ないので、儲かりません。そういう会社は、きっと安売りばかりしていることでしょう。今はモノが余っていますから、何を買うのかは買い手の自由です。そして買い手は、自分の価値観に合うモノを買うのです。

つまり、いいモノかどうかは、価値観に合うか合わないかということなのです。だから、万人にとっていいモノというのは、存在しません。特定の価値観の人たちにとってのいいモノしか存在しないのです。だから、どういう価値観の人たちをターゲットにするのかということが非常に重要なのです。逆に言えば、ターゲットの価値観を明確化しなければ、いいモノを提供することは不可能だということです。

第16章 感受性が乏しいといい仕事はできない<前編>へ続く
※2012年7月3日公開!

チュー太がこれまでに学んだマーケティングのポイント