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07.06.12

第16章 感受性が乏しいといい仕事はできない<後編>

前回までのお話
腕の良いチーズ職人のチュー太は2軒のチーズ屋さんを経営し、アルバイト店員を2匹雇っています。売上が伸び、チーズをチュー太1匹で作るには限界となり、修行時代に同じ親方のお店で一緒に修行したチュー輔をチーズ職人として雇いたいと思っていました。チュー輔を雇うにあたり、親方から価値感が同じでないと一緒に働くことは難しいというアドバイスをもらいました。久々に再会したチュー輔はチーズ作りの腕が一流だっただけでなく、価値感もチュー太と同じだったので、チュー太はチュー輔を雇うことを決意します。
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第16章<後編>

「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?」
「なんだよ。自分で手紙に書いてたじゃないか。オレをこの店で雇ってくれるんだろう?」

「あ、そうそう、そうなんだよ。こっちは、そのつもりなんだけどさ。チュー輔の気持ちは、どう?」
「勿論、そう言ってもらえることは、ものすごくありがたいことだよ。でも、無条件でお前のお世話になるわけにはいかないさ」
「そりゃあ、給料とか色々な条件を決めないとね」
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ、どういう意味?」

「給料やら何やらは、お前が自由に決めてくれればいいよ。しかもそれは、オレがこの店に相応しい職人ねずみだって、ちゃんと認めてもらってからのことだろう?」
「もう認めたよ。チュー輔の作ったチーズも食べたし、今こうやって話もしたしね。ただし、念のため最初の3週間は試用期間だけどね。チュー輔がウチの店を気に入るかどうか、3週間のうちに確かめて欲しいんだ」

「それは、ありがたい。試用期間のうちに、オレのことをやっぱりダメだって思ったら、遠慮なくクビにしてくれよ」
「たぶん、そんなことはないと思うけどね」
「それはお前の意見だろ? それだけじゃダメさ」
「だからチュー輔も、試用期間の間に考えてもらいたいんだよ」

「それだけじゃダメなんだよ。これは、お前とオレの二匹だけで決められることじゃない」
「じゃあ、あとは誰に決めてもらう必要があるんだ?」
「ほら、店員さんたちがいるじゃないか。この店には男の子がいたし、あっちの店には女の子がいた。彼と彼女にもオレのことを認めてもらわないと」

「ああ、そうだね。でも、チュー輔とあの二匹は、たぶん気が合うと思うよ」
「それならいいんだけど、こればっかりは実際に一緒に働いてみないと分からないさ。それに、その二匹と気が合ったとしても、それだけじゃまだダメだよ」

「でも、ウチの店には、その二匹以外にはいないけど」
「いるよ。お前は一番大事なねずみたちのことを忘れている」
「え? 誰のこと?」
「お客さんたちだよ。お客さんたちに認めてもらえなかったら、この店で働くことは出来ないよ」
「なるほど。そういうことか」

「そういうこと。オレの作るチーズが、お前が作ったチーズを食べているお客さんたちに、果たして認めてもらえるかどうか。正直言って、かなり高いハードルだと思う」
「大丈夫だよ。チュー輔のチーズは、間違いなく一流だよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、仮にオレのチーズが一流だったとしても、それでも認めてもらえるとは限らないさ」
「なんで?」

「一流の中にだって、色々な一流があるだろう? 一流ならどれでもいいってねずみは、あまりいない。一流の中でも、自分の好きなチーズと好きじゃないチーズがあるはずだよ。お前のチーズが好きなねずみが、オレのチーズも好きかどうかは、実際に食べてもらわないことには分からない」
「うーん、確かにそうだね」

「ただし、オレのチーズがお前の店のお客さんたちの好みに合わなかったとしても、お前の店のお客さんたちの好みが分かれば、それに合わせたチーズを作ればいいわけだ」
「あ、そうだよ。それで解決じゃないか」
「でも、オレにそれが出来るかどうかは、やってみなければ分からない」
「チュー輔の腕前なら、絶対に出来るよ」
「チュー太、これはチーズ作りの腕前だけの問題じゃないんだよ」
「じゃあ、何が問題なんだ?」

「感受性さ」
「へ?」
「オレに、お前の店のお客さんたちの好みを感じ取る感受性が無かったら、オレの腕前がどんなに良かったとしても、お前の店のお客さんの好みに合うチーズは作れないだろう?」
「ああ、そういうことか」

「だからさ、試用期間の間に、オレの感受性も試して欲しいんだ。言っておくけど、温情で合格っていうのは止めてくれよ」
「分かった。温情無しってことで」
chuta_jump.jpg「じゃあ、早速明日から働かせてもらうよ。よろしく頼みます、親方」
「親方? よしてくれよ。僕は親方なんて柄じゃないよ」
「オレにとっては、お前が師匠だし雇い主になるんだから、親方さ」
「うへぇ~、勘弁してくれよ」

「ダメだね。チーズ職人の世界じゃ、そういうルールになっているだろう? ルールはきちんと守らなきゃ」
「うー、確かに」
こうしてチュー輔は、チュー太のお店で働き始めることになりました。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

どんなに高いスキルを持っていたとしても、お客さんの好みを感じ取る感受性が無ければ、それに合わせた仕事をすることは出来ません。例えば、お客さんの好みの合わせた商品を作ることは出来ませんし、お客さんの好みに合わせた広告を作ることも出来ません。それに、お客さんの好みに合わせた接客も出来ませんし、お客さんの好みに合わせたサービスも出来ません。

だから、感受性の乏しい会社は、全然儲かりません。感受性の乏しい社員ばかりがいる会社は、全然儲からないということです。そのため、多くの会社は、出来るだけ感受性が豊かな人を採用したいと思っています。逆に、どんなに頭が良くても、感受性が乏しい人は、採用しないのです。

感受性が豊かな社員ばっかりだったら、全てのセクションの全ての社員がお客さんの好みを感じ取りますから、全社をあげてお客さんの好みに合わせたことが出来ます。そうなったら当然、儲かります。

それに、感受性が豊かな社員は、お客さんの好みだけじゃなくて、同僚の気持ちも察することが出来ます。だから、感受性の豊かな社員は、お互いに気遣うし、協力し合います。そうなれば、チームワークが良くなりますから、作業効率が上がります。だから、さらに儲かります。

しかも、お互いに助け合うわけですから、社員同士が仲良くなります。だから、楽しく働けます。会社を辞めようと思う社員は少ないでしょう。そうなれば、社員が辞めることによる社内のスキルの流出が起こりません。社内のスキルが、年々社内に積みあがっていきます。その結果、年々儲かるようになるでしょう。

以上のように、儲かるためには、豊かな感受性が不可欠です。だから、本を読んだり、映画を見たり、音楽を聴いたりすることも、仕事をする上でとても重要なことなのです。

第17章 経営には財務の知識が不可欠である<前編>へ続く 
※2012年7月10日公開

チュー太がこれまでに学んだマーケティングのポイント