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07.10.12

第17章 経営には財務の知識が不可欠である<前編>

前回までのお話
チュー太は2件のチーズ屋さんを経営するねずみです。お客さんとのコミュニケーションを大切にし、結果お店の売上を伸ばしてきました。1匹でのチーズ作りに限界を感じたチュー太は同じ親方のお店で修業を積んだチュー輔を雇うことに決めました。まずは3か月間の試用期間を設け、店員のチュー子ちゃん、チュー輔、そして最も大切なお客様に認めてもらえるかどうか、様子をみることにしました。
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第17章<前編>

チュー輔が加わったことで、チーズを作れる量が、2倍に増えました。でも、そんなに作ってしまうと、今の2店舗だけでは売りさばけません。だから、在庫が大量に発生してしまうということです。

在庫が発生するということは、商品の鮮度が落ちるということです。でも、デイリーフレッシュチーズは長持ちするので、鮮度はさほど問題ではありません。それ以上に大きな問題なのは、在庫が増えるということは、固定費が増えるという点なのです。

在庫は、材料費や設備費やねずみ件費などが、積み重なって出来上がったものです。それなのに、まだ売れていないのですから、売上になっていません。だから在庫は、売上に関係なく発生するコストなので、固定費なのです。ですので、在庫が増えるということは、固定費が増えるということなので、利益を圧迫することになります。

じゃあ、在庫が発生しないように、売りさばける分だけ作ればいいのかと言うと、そう単純なことではありません。そうすることは、本当は2倍作れるのに、それよりも少ししか作らないということです。つまり、生産能力をフルに稼動させない状態です。

そうなると、その生産能力を維持するために発生したコストは、無駄になります。チュー太のお店で言えば、チュー輔がフルに働かないということですので、チュー輔に支払うねずみ件費が無駄になってしまうわけです。そんなことでは、利益が出ません。だから、やっぱり、これまでの2倍の量のチーズを作った方がいいということになります。

でも、それだけのチーズを売りさばくためには、お店を増やすか、今ある2店舗を大きくする必要があります。そして、チュー太としては、お店を増やすつもりはありません。チュー太は、自分で直接見ることができる分しか、お店を出す気はないのです。それが絶対に正しい考えというわけではありませんが、チュー太はそういう主義なのです。

だから、今ある2店舗を大きくするという選択肢しかありません。そして、当たり前ですが、増築するためには、それなりのお金が必要です。でも、チュー太のお店には、そんなお金はありません。

そんなこんなで、チュー太は頭を抱えてしまっています。めでたくチュー輔を雇うことができたのは嬉しいのですが、それが原因で新たな問題が発生してしまったのですから、どうしていいのか分かりません。

当然、チュー輔には相談できません。それに、お金の問題ですから、チュー子ちゃんへチュー哉にも相談できません。だからチュー太は、一匹で悩んでいました。

でも、チュー太が悩んでいることは、チュー輔もチュー子ちゃんもチュー哉も、みんな分かっていました。しかも、チュー輔には、チュー太がなんで悩んでいるのかも分かっていたのです。

「チュー太、ちょっといいかな」

仕込みが一段落したタイミングで、チュー輔がチュー太に話しかけました

「うん。なんだい?」
「オレのせいで色々気を遣わせてしまって、本当に申し訳ない」
「おいおい。別に気を遣ってなんていないよ」
「いや、とぼけなくてもいいさ。店を増築する必要があるんだろう?」
「......知ってたんだ」
「そりゃそうさ。オレだって昔は、店を経営していたんだぜ」
「そっか。そうだったね」
「そうは言っても、あの時は大失敗したけどな。ハハハ」
「大変だったよね」

「まあね。でもさ、そのおかげで分かったことがあるんだ。経営をするには、財務の知識が必要なんだよ」
「財務の知識?」
「そう。だからオレは、隣の国でチーズの修行をしながら、財務の勉強もしてたんだよ」
「ふうん。どんな勉強をしたの?」

「例えば、損益計算書っていうのがあるんだ」
「何それ」
「簡単に言えば、収益と費用の状態がどうなっているのかってことを、一覧表にしたものだ」
「それってつまり、家計簿みたいなもの?」
「まあ、そうだ。ただし、何をいくら買ったのかってことじゃなくて、どれだけ利益が出ているのか、あるいは損失がいくらなのかってことを見ることが目的なんだ」
「ふうん」

チュー太には、チュー輔が何を言いたいのか分かりません。だから、おとなしく聞いていることにしました。

「まず、売上があって、原価がある。売上から原価を引いたものを、売上総利益っていうんだ。これが赤字だと、どうしようもない。そのビジネスは、やめた方がいいかもしれない」
「そりゃあ、そうだね」

「だから、売上総利益が黒字だったとして、次にそこから販売費と一般管理費を引く。それを、営業利益って言うんだ。販売費っていうのは、広告費とか販売手数料なんかのことだな。一般管理費は、総務部とか人事部とかの間接部門で発生する費用のことだ。だから、売上総利益が黒字なのに、営業利益が赤字だったとしたら、ビジネスそのものに必ずしも必要ないことに費用を使いすぎているってことになる」
「なるほど」

「それから、営業利益の他に、営業外収益と営業外費用っていうのがある。これらは、利息とか配当金とかのことだな。これについては、チュー太にはあんまり関係ないから、詳しくは説明しないことにする」
「うん」

「とにかく、営業利益と営業外収益と営業外費用を足したものを、経常利益って言うんだ。それに、固定資産を売却したりした場合の特別利益を足して、災害なんかで損失が出た場合の特別損失を引いたものが、税引前当期純利益になる。これが、法人税の対象になるんだ」
「ふうん」

「だから、税引前当期純利益から法人税を引いたものが、当期純利益ってことだな。こういうこと全部を一覧表にしたのが、損益計算書なんだよ」
「そうなんだ」
「知らなかっただろう?」
「うん」

chuta_pencil135_151.jpg「チュー太の店はまだ売上規模が小さいから、損益計算書を作らなくても、特に問題はない。でも本当は、今のうちから作っておいた方がいいんだ。そうすれば、自分のビジネスの状態がどうなっているのかが、きちんと分かるからな。だから、明日になったら、この1年分の損益計算書を作ってみよう」
「うん。よろしく頼むよ」

第17章 経営には財務の知識が不可欠である<後編>へ続く
2012年7月13日(金)公開!

チュー太がこれまでに学んだマーケティングのポイント