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07.17.12

第18章(最終章) みんなのことを大切に思う<前編>

前回までのお話
チーズの味がわかる健康志向のねずみのためにチーズ屋さんを経営するチュー太。修行時代の親方、お客さん、アルバイト店員のチュー子ちゃん、チュー哉、そしてチュー太の片腕としてチーズ作りをするチュー輔など、多くのねずみに支えられながら売上を伸ばしてきました。特にチュー輔には財務の知識もあり、経営者としてのチュー太を支えたのでした。
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第18章(最終章) 前編

「仏説摩訶般若波羅蜜多心経~、観自在菩薩行深般若波羅蜜多時~、照見五蘊皆空~、度一切苦厄~~」

葬儀会場には、お経を唱えるお坊さんねずみの声が、厳かに響いています。そして、参列者たちのすすり泣く声も聞こえます。大勢の参列者がいますが、お経とすすり泣き以外の音は一切聞こえません。小さな子ねずみたちでさえ、神妙にしています。

大きな祭壇には、たくさんの生花が飾られています。あまりにも大きな祭壇なので、まるで本物のお花畑のようです。普通のねずみが亡くなっても、これだけ盛大なお葬式をすることはありません。こんな立派なお葬式をするのは、国を代表するくらい立派なねずみが亡くなった時だけです。

その立派なねずみとは、チュー太のことです。祭壇の中央には、おじいちゃんねずみになったチュー太がニコニコ笑っている大きな写真が置かれています。チュー太は、チュー輔が一緒に働くようになってから4年後に、天寿を全うしたのです。

ねずみの4年は、人間の40年くらいです。だから、7歳だったチュー太の死は、ちょっとだけ早かったかもしれません。でもチュー太には、悔いはなかったでしょう。

チュー太のお店は、チュー輔が合流すると同時に、ぐんぐん売上を伸ばしました。でもそれは、チュー輔の力だけで出来たことではありません。チュー太が基本方針を曲げず地道な努力を続けたことに、チュー輔の色々な知識やアイデアが組み合わさったおかげです。

しかも、チュー太のお店が成長した理由は、それだけではありません。チュー輔が加わったことで売上が伸びたおかげで、アルバイトねずみを増やすことになりました。そして、チュー子ちゃんとチュー哉は、その新人アルバイトねずみたちを指導する役目をすることになると同時に、正社員採用されました。それをきっかけに、チュー子ちゃんはチュー太に代わってお料理教室の先生をするようになって、チュー哉はチーズ職人を目指す弟子ねずみになりました。

この体制になったからこそ、チュー太のお店は安定的に売上を伸ばせるようになったのです。チュー太がチーズ作りに専念できるようになって、そこにチュー輔が加わって、さらにチュー哉もチーズ作りを手伝い始めたわけです。だから、チュー太が一匹でチーズ作りをしていた頃の3倍以上のチーズが作れるようになりました。

でも、チュー太の方針は最初の頃から変わりませんでした。チーズの味が分かる健康志向のねずみたちだけをお客さんにし続けたということです。だから、闇雲にお店を増やしたわけではありません。チーズの味が分かる健康志向のねずみの数は限られているので、あっちこっちにお店を出しても無意味なのです。

それでもチュー太のお店の売上が増えた最大の理由は、通信販売を始めたことです。貿易商の紳士ねずみと協力して、隣の国のチーズの味が分かる健康志向のねずみたちにも売り始めたのです。このビジネスによって、チュー太のお店の売上は爆発的に増えました。そして、たくさんの従業員を雇う大企業になっていったのです。

でもチュー太は、お金持ちになったわけではありません。チュー太は自分自身を筆頭に、役員たちの給料を出来るだけ少なくして、その分出来るだけたくさんの従業員を雇ったのです。そのことによって、一匹ごとの労働量を減らす方針を打ち出しました。それは、出来るだけたくさんのねずみたちの生活を豊かにしたいと思ったからです。チュー太は、無理な長時間労働をしないで、身体を壊さずそこそこの給料を稼いで、お金持ちではないけれど自由な時間を楽しめる生活を、多くのねずみに提供したかったのです。

チュー太はそれを、着実に実行しました。だから、お店の売上が爆発的に増えて、大きな会社になって、その会社の社長の座に就いてからも、チュー太はお金持ちにはならなかったのです。

しかもチュー太は、恵まれないねずみたちのためのボランティア団体を立ち上げて、その活動費も提供しました。そのボランティア団体の活動は、チュー太たちの国だけではなく、隣の国にも広がりました。チュー太は、隣の国のねずみたちも自分のお店の商品を買ってくれているのだから、隣の国の恵まれないねずみたちの援助もするのが当然だと考えたのです。

このような活動の結果、チュー太は多くのねずみたちから尊敬されるようになりました。チュー太を大統領にしようという声さえ出てくるほどでした。でも、チュー太は大統領になんてなりませんでした。チュー太は、チーズ職人という自分の仕事を愛していたのです。そしてチーズ職人という仕事に、その仕事を一緒にしている仲間たちに、誇りを持っていたのです。

だからチュー太は一生、チーズ職人のままでした。チュー太は社長になってからも、ずっと一匹のチーズ職人として働き続けていたのです。

いつの間にか、お経が終わっています。今は、参列者たちのすすり泣く声しか聞こえません。

そんな中、一匹の老ねずみが祭壇の真ん中に歩み出ました。チュー輔です。チュー輔は長い間、副社長としてチュー太を支え続けました。そして、チュー太が亡くなったことで、社長を引き継ぐことになりました。だから、チュー太のお店は今後も安泰です。

nezumi_blue_dot.gif「チュー太、君は私の心の友だ」

チュー輔の挨拶が始まりました。

「心の友は、永遠に私の心に生き続ける。そして、大勢のねずみたちの心の中にも生き続けるだろう。君の店の従業員たち、君の店のお客さんたち、君が救いの手を差し伸べた多くのねずみたち、その活動を知るさらに多くのねずみたち、みんなの心の中に君は生き続けている。

みんな、君の遺志を受け継いでいる。君が創り出したチーズも、君が成し遂げた様々な活動も、今後もみんなで受け継いでいく。私も、責任を持ってそれらのことを実現させる一匹だ。

思い返せば、君には助けられることばかりだった。君がいなかったら、今の私はいない。だから今度は、私が君の手助けをする番だ。是非とも、そうさせて欲しい。そして君も、それを私に期待してくれているものと信じている。

ただし、私自身も、そう長くはないだろう。だけど大丈夫。君の遺志は、私から君の息子さんたちにバトンタッチされる。君の息子さんたちは、私とチュー哉が責任を持って、一流のチーズ職人に育て上げる。そう約束する。

だから心の友よ、安心して眠って欲しい。これまで本当にありがとう。心から感謝しています」

chuta&flower190_144.jpgチュー輔の挨拶の途中で、会場内のすすり泣く声が大きくなっていました。そして、チュー輔が挨拶を終えると、すすり泣く声は一層大きくなりました。中には号泣して、座り込んでしまっているねずみもいます。すっかりオバサンねずみになったチュー子ちゃんも、役員席で泣き崩れています。そこにいるメスねずみはみんな、オスねずみの多くも泣いています。

第18章(最終章) みんなのことを大切に思う<後編>へ続く
2012年7月20日(金)更新! いよいよ最終話!


チュー太が売上を伸ばすために、これまでに学んだマーケティングのポイント