TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第3章 ちょっとしかいない客を狙え<後編>



03.27.12

第3章 ちょっとしかいない客を狙え<後編>

前回までのお話
チーズ職人として修行を積み、ようやく店を持つことになったチュー太。チュー太はチーズの味のわかるねずみのために、天然素材100%でカロリーがあまり高くないチーズを作ろうと思います。素材やカロリーにこだわるアンチエイジングに興味のあるメスめずみが増加しているとおチューさんに聞き、チーズへの評価を聞いてもらいました。結果は、メスねずみたちはオシャレや子育てなど、それぞれにお金が必要で味よりも値段を重視するとのこと。しかしチュー太はおいしいチーズでなければ作りたいと思っていません。悩んだチュー太は同じくお店を構えようとしているチュー輔に一緒にやらないかと話をもちかけますが、チュー輔のお店ではおいしいチーズを売り出すつもりはありません。簡単にチュー輔を頼ろうとしてしまった自分が恥ずかしくなりました。

これまでの教え
第1章 新しい事業や商品を作るときには、最初に「誰のためのビジネス」をするのかを考えましょう。
第2章 お客さんのこと、競合のことをリサーチしないとビジネスの戦略を練ることはできません。

第1章からご覧になる方はこちら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第3章<後編>

チュー太は、簡単にチュー輔を頼ろうとしていた自分が恥ずかしくなりました。だからチュー太は、チュー輔に謝って、すぐに話を終わらせようとしました。でもチュー輔は、話を続けました。
「オレに謝る必要はないさ。でもさチュー太、お前の考え方は間違っていると思うよ」
「え? 何が?」
「だってさ、お前はチーズの味が分かるねずみだけをお客さんにしようとしてたんだろ? それなのに、そういうねずみが少ないからって、諦めちゃうのか?」
「だって、しょうがないじゃないか。ちょっとしかいないねずみを相手にしたって、お店が成り立たないよ」
「それが間違ってるっていうのさ」
「何でだよ。ちょっとしかお客さんが来なきゃ、儲からないじゃないか」
チュー太には、チュー輔が何を言っているのか分かりません。だから、ちょっとバカにされた気がして、不機嫌になってしまいました。でもチュー輔は、落ち着いて話を続けます。

「いいか、チュー太。オレたちは、たった一匹で店を始めようとしてるんだぞ。最初っからたくさんのお客さんを相手にすることなんか、できるわけがないじゃないか。オレたちは、少しのお客さんのための店を始めるのさ」
「じゃあ、チュー輔の店も、ちょっとしかお客さんが来ないってことか?」
「最初は当然、そうだろうな。オレが始めようとしている店は、かなり変わった店だろう? そういう店には、大半のねずみは来ないよ。最初のうちに来てくれるのは、相当新しいもの好きのねずみだけだろうさ。しかも、かなりオシャレに敏感なお嬢様系ねずみだけだ。そんなねずみは、若いメスねずみの中でも、100匹に1匹くらいじゃないかな」
「そんなんで商売になるのか?」
「なるよ」
「なんで?」
「考えてみろよ。オレの店は、チーズを売るだけじゃないんだぞ。店の中で、チーズを食べながら、お茶も飲む。それに、前歯やヒゲのお手入れもする。だから、チーズを売るだけよりも、一匹のお客さんからもらえる金額が大きくなるのさ。だったら、ちょっとしかお客さんが来なくても、充分儲かるだろう?」
「そうか! なるほど!」
「しかも、それだけじゃないんだ」
「え? まだ何か秘訣があるの?」
「ある」
「なになに?」
「お前は本当に単純だな。おいしいチーズを作らせたら天下一品だけど、お客さんの気持ちに関しちゃ、鈍感もいいところだ。お客さんがちょっとしかいないってことは、どういうことが出来ると思う?」
「え? なんだろう?」

チュー太はすっかり、チュー輔の話に感心しています。だから、さっきとは違って、バカにされても、もう気になりません。そんなことよりも、チュー輔の話の続きが聞きたくて仕方ないのです。
「ほら、だから鈍感だって言うんだよ。お客さんの気持ちになって考えてみな。ちょっとしかお客さんがいない店のお得意さんに、自分がなったとする。そういう場合、お前なら何を期待する?」
「うーん、そうだなぁ。たぶん、親切に対応してもらいたいと思うだろうね」
「ほら、そうだろう? だから、それをやるんだよ。他の店よりも親切に対応したら、お客さんは気分が良くなる。そうなれば、そのお客さんは、他の店じゃなくて、こっちの店にまた来てくれるってわけさ」
「なるほどー」
「それにさ、何度も来てくれるお得意さんは、ウチの店のファンってことだろう? だから、お得意さんが、自分の知り合いに、ウチの店のことを紹介してくれることも期待できる。いいお店があるよってさ。そうすれば、自然にお客さんが増えていくってわけだ」
「おぉ!」
「しかもだな、ちょっとしかいないねずみを狙って商売するってことには、まだ他にも利点があるんだ」
「え? まだあるのか?」
「ちょっとしかいないねずみを狙うってことはだな、大きな店と競合しないってことだよ。大きな店は、たくさんいるねずみを狙って商売してるからな。だからこそ、ちょっとしかいないねずみを狙うんだよ。大きな店と競合したら、勝てるわけがないからな」
「おー、そういうことか」
「そうだよ。だからお前も、チーズの味が分かるねずみが少ないからって、諦める必要はないのさ。むしろ、そういうねずみがちょっとしかいないってことは、チャンスってことさ」
「そうか! なるほど。色々なことを教えてくれて、どうもありがとう」
「どういたしまして。お互い、がんばろうな」

chuta&flower190_144.jpgチュー輔の話を聞いて、チュー太はやる気がドンドン湧いてくるのを感じました。チュー太には、もう迷いはありません。最初に考えた通り、チーズの味が分かるねずみだけのために、お店を作る覚悟を決めたのです。
だって、チーズの味が分かるねずみが一匹もいないわけじゃないんですから。少なくとも、チュー太が知っているだけでも一匹はいます。そう、おチューさんがいるのです。

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

自社がNo.1でない限り、一番たくさんいる人たちをターゲットにしてはいけません。なぜならば、一番たくさんいる人は、間違いなくNo.1企業がターゲットにしているからです。そして、No.1企業というのは大抵の場合、薄利多売のビジネスをしていますので、No.1企業と競合すると、必ず価格競争になります。そして、No.1企業以外は、No.1企業よりもたくさん売ることができませんから、同じ価格で競争しても必ず負けます。だから、もっと安くするしかなくなって、全然儲からなくなるわけです。
人口が増えていた頃は、No.1企業じゃなくても、一番たくさんいる人たちをターゲットにしても儲かりました。なぜなら、人口が増えていたので、No.1企業だけでは、一番たくさんいる人たちの分の商品を提供しきれなかったからです。だから、No.2以下の企業が、そのおこぼれにあずかることができたのです。

でも、今は違います。人口は減少し始め、モノが余っています。そのためNo.1企業だけで、一番たくさんいる人の分の商品を提供しきることが可能になっています。だから、No.1企業以外は、あまりたくさんいない人たちをターゲットにする必要があるのです。そうすれば、チュー輔の言っていた通り、一人ひとりのお客さんに、手厚いサービスをすることができるようになります。そして、顧客満足度が上がってリピーターが増えます。さらに、そのリピーターが他のリピーターを連れてきてくれるのです。
しかも、顧客満足度が高いということは、多少値段が高くても買ってくれるということです。そうなれば、利益率が高くなりますから、そんなにたくさんお客さんがいなくたって儲かります。

繰り返しますが、日本は人口が減少し始めました。今後の数十年間は、日本の人口は減る一方です。つまり、薄利多売のビジネスは、どんどん成立しにくくなっていくのです。だから今後は大企業も、日本国内では薄利多売のビジネスをしていたら儲からなくなります。どんな企業も、特定のターゲットだけを狙ったビジネスをするしかなくなっていくのです。万人を狙ったビジネスは、今後は成立しなくなるでしょう。成立するとしても、それはNo.1企業だけです。

No.1企業じゃないのに、万人向けビジネスを成功させるためには、ものすごく効率の良いビジネスモデルを構築する必要があります。万人向けですから、価格が安いことが条件になります。しかも、No.1企業じゃないのですから、大量に売ることはできません。それなのに利益が出るわけですから、安い原材料で、わずかな人数で、在庫の少ないビジネスをする必要があるのです。そういう天才的なビジネスモデルを構築できた場合にのみ、No.1企業じゃなくても万人向けのビジネスを成功させられる可能があります。

第4章 誰にとってのどんな魅力?<前編>へ続く ※2012年3月30日(金)公開!

next_story1.JPG次 回 予 告
少ないお客さんを相手にするからこそ、手厚いサービスを提供でき、それにより顧客満足度が上がりリピーターが増える・・・。チュー輔から聞いたアドバイスでチュー太は自分の決心をさらに強くしました。自分の作るチーズは少なくともおチューさんは買ってくれるのですから。そこでおチューさんがどんなチーズをほしがっているのかを、手紙を読み返し考えます。そこには大きなヒントが隠されていました。