TOP > 高橋朗のマーケティング小説「チュー太はどのようにチーズ屋さんを成功させたのか」 > 第4章 誰にとってのどんな魅力?<後編>



04.03.12

第4章 誰にとってのどんな魅力?<後編>

前回までのお話

一人前のチーズ職人として独立するチュー太。チーズの味がわかるねずみのために、天然素材100%でカロリーがあまり高くなくおいしいチーズを作ることに決めました。親方のお店のお客さんであるおチューさんはチーズの味がわかるねずみです。チーズの味がわかるねずみが、どんなチーズを欲しがっているかを知るため、おチューさんからもらった手紙を何度も読みます。チーズは袋を開けて3日ほどで固くなってしまうため、余ったチーズは捨ててしまいます。なのであまり高いチーズは買えないのだそうです。どうにか捨てない方法を考え続け、ようやく答えを導きます。チーズを1日分ごとに袋詰めをして3日分をまとめて売ることを思いつきました。
第1章からご覧になる方はこちら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第4章<後編>

その次の日から、チュー太は、お店の場所探しを始めました。そうしていると、いよいよ自分のお店を構えるんだということが、具体的に心に浮かぶようになりました。お店の名前や商品名も、色々頭に浮かびます。でも、これだというものが考え付きません。それに、肝心のお店の場所も、下見に行けば行くほど迷うばかりです。
そこでチュー太は、おチューさんのお店に行ってみることにしました。例によって、おチューさんのアドバイスをもらいたかったのです。おチューさんなら、何かヒントをくれるように思えます。それに、おチューさんにはまだ、独立することに決めたことを報告していなかったし、きちんとお礼も言っていなかったので、前々からおチューさんのところに挨拶に行こうと考えていたのです。

nezumi_green_road.gif「こんにちはー」
「あら、チュー太さん、突然どうしたの? まさか、オスねずみが毛繕いに来たわけじゃないわよね?」
おチューさんのお店は、丁度すいている時間でした。だから、おチューさんは、他の店員ねずみに仕事を任せて、チュー太の話を熱心に聞いてくれました。
「そうかぁ、いよいよ独立するんだ」
「ええ。これも、おチューさんのおかげです。ありがとうございました。色々お世話になりました」
「いやーね、あらたまって。私はただ、あのチーズが食べたかったら協力しただけなんだから、お礼なんて言ってもらわなくてもいいのよー。そんなことよりさ、お店はいつオープンするの?」
「それが、まだ決まってないんです。お店をどこに出そうか、迷っちゃってて」
「場所なんて、どこでもいいじゃない。ねずみは足が速いから、遠くでも近くでも、大して気にしないわよ。それに、ねずみだから、広くなくてもいいしね」
「そうですよね。でも、何となく迷っちゃうんですよ。それに、お店の名前とか商品の名前とかも、なかなか決められなくて......」
「ふうん、なるほどねぇ。でも、そういうことも大切かもしれないけど、もっと大切なことがあると思うんだけど......」
「もっと大切なこと?」

「そう。だってさ、お店の名前や商品の名前だけじゃ、どういう商品を売っているのか分からないじゃない? だから、どんなにいい商品を売っていても、売れないわよ」
「でも、チーズ屋って書いておけば、チーズを売ってるって分かりますよね?」
「私は、そういうことを言ってるじゃないわよ」
「じゃあ、どういうことです?」
「だから、どういう特徴があるチーズを売っているかが分からなきゃ、そこのお店で買おうと思わないってことよ」
「あ、そうか」
「そうに決まってるじゃない。例えばさ、チーズ地獄堂ってお店の激辛地獄チーズっていう名前の商品だったら、きっとすごく辛いチーズなんだろうなぁって分かるわよね?」
「そうですね」
「でも、そのお隣に、チーズ激辛帝国ってお店が出来て、激辛帝王チーズっていう名前の商品を売ってたら、どっちでもいいやってなっちゃうでしょ?」
「僕なら、どっちも食べたくないけど......」
「あなたの好みは聞いてないわよ。これは例え話でしょ。とにかく、お店の名前と商品名だけじゃ、なかなか差別化できないってことが言いたいの」

nezumi_green_road.gif「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「だから、商品の特徴を説明するためのキャッチフレーズが必要なのよ」
「キャッチフレーズねぇ。例えば、さっきの激辛チーズで言うと、死ぬほど辛い! とか?」
「そんなんじゃ、商品の特徴は全然分かんないわよ」
「じゃあ、どういうのがいいんですか?」
「そうねぇ~。例えば、こんなのはどう? <君は当店が独自開発した世界一辛いビリビリエキスに耐えられるか!>とか。それから、<要注意! 猫でも食べられない青唐辛子が100本分入ってます!>とか」
「そんなチーズ、誰が食べるの?」
「激辛好きのねずみに決まってるじゃない。重要なのは、そこよ」
「そこ?」

「そう。誰のための商品で、その誰かにとって、どういう嬉しいことがある商品なのかが、具体的に分かるってことが重要だってことよ。ほら、さっき私が言ったキャッチフレーズが付いてたら、どっちも激辛のチーズだけど、違う特徴のチーズだって分かるでしょう?」
「確かに、違うチーズだって分かりましたね。最初のビリビリエキスっていうのは科学的な感じがしたけど、後の青唐辛子100本分っていうのは天然成分って感じでした。そうか、激辛好きのねずみにも、科学的なのが好きなねずみと、天然成分が好きなねずみがいるってことか」
「そういうこと。つまり、天然成分100%で低カロリーのチーズが好きなねずみの中にも、色々なねずみがいるってことよ。だから、どういうねずみのためのチーズなのかが、ちゃんと分かるようなキャッチフレーズが付いてないと、売れないってことよ」
「なるほどっ!」

one_point1.JPGワンポイント・アドバイス

どんなに優れた特徴のある商品でも、その特徴がお客さんに伝わらなければ、買ってもらえません。モノが不足している時代なら買ってもらえたでしょうが、今はモノが余っています。それに、今後は人口が減って、もっともっとモノが余っていくのです。そのため、会社名や商品名だけでは、他の商品との違いを全て伝えることは難しいでしょう。
だから、キャッチフレーズが必要ですし、とても大切なのです。どんなにイケメンな人でも、名前を名乗っただけで誰もがメロメロになることなどないのです。ちゃんと自己紹介して、自分に興味を持ってもらうことから始める必要があるでしょう。だから自己紹介は、何を言っていいわけじゃなくて、相手が興味を持ってくれるようなことを言う必要があります。

商品も、それと同じです。重要なのは、その商品のユーザー・メリットが、どんなユーザーにとってのどんなメリットなのかということです。万人にとってメリットとなることというのは、滅多にありません。あるとしたら、「安い」とか「おいしい」とか、そういう曖昧でインパクトのない言葉だけです。
仮に「安い」というメリットだとしても、どのくらい安いのか、なぜ安いのかが分からなければ、メリットにはなりません。しかも、どのくらい安いのか、なぜ安いのかによって、メリットだと感じる人もいれば、感じない人もいます。だから、ターゲットを細かく設定して、そのターゲットがメリットだと感じる点をキャッチフレーズにする必要があるのです。
これも、告白する時と同じです。イケメンな人が「僕はサッカーが得意です」と言っただけで、メロメロになる女性は滅多にいません。どのくらいサッカーが得意なのか、そうなるまでにどんな苦労をしたのかなどが分かって初めて、相手の女性が関心を示してくれるのです。
かつては、良い商品を真面目に作ってさえいれば、それで売れました。つまり、黙っていても売れたのです。でも今は、どんなに良い商品を作っても、黙っていたら売れません。つまり、真面目なだけでは、ビジネスにならないのです。真面目なことは今も大切なことですが、黙っていてはダメです。自己表現する必要があるのです。

そういう意味では、そもそも自己表現しやすい商品を開発することが重要だとも言えます。他の商品との違いを理解してもらいために、ものすごくたくさん説明する必要がある商品は、いくら良い商品でも売れにくいでしょう。
chuta_entrance123_129.jpgこれは、企業そのものについても、言えます。競合他社との違いが分かりやすいことが重要です。そうじゃなければ、お客さんにとっては、どこの企業でもいいわけです。こういうことでは、なかなか選んでもらえません。

第5章 売上と利益の関係を考えよう<前編>へ続 ※2012年4月6日(金)公開!

next_story1.JPG次 回 予 告
誰のためのどんな価値のある商品を作るかは決まりました。しかしせっかく考えた価値も伝わらなければ意味がありません。次回、チュー太はお店のキャッチフレーズ、商品名、店名を決め、お店をオープンさせます。