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04.13.12

第6章 お客さんは急に増やすな<前編>

前回までのお話
ねずみのチュー太は一人前のチーズ職人となり、「働くメスねずみのためのチーズ屋さん」というお店をオープンさせました。最初は少なかったお客さんですが、クチコミが広がり徐々にお客さんの数が増えていきます。一方、同じ頃独立をしたチュー輔のお店はたいへんな人気となりました。アルバイトのねずみを雇い、味にはこだわらないけど、オシャレな雰囲気が好きな娘ねずみたちが押しかけます。最初のうちは時給も安く、また材料費も抑えられ、多くの利益を出すことができたため、従業員のねずみの時給を上げ、また多くの店舗を持つまでになります。しかし、そのうち家賃、広告費、給料など、固定費、変動費ともに上がってしまい、利益率が下がってしまうことになりました。
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第6章<前編>

いまや、チュー輔のお店を知らない娘ねずみは、きっと一匹もいないくらいです。そのくらい有名になったのです。だからチュー輔は、とてもお金持ちになりました。でも、チュー輔は、それで有頂天になったりしていません。さらに新たに店舗を増やそうと、あちこちの場所を検討している最中です。

今日もチュー輔は、忙しくあちこちを走り回っています。チュー輔は、お店を出す場所の候補地を、必ず自分の目で確認することにしているのです。
「チュー輔」
今日3番目の候補地を見ていると、誰かに名前を呼ばれました。振り返ると、チュー太が大きな牛乳瓶を抱えて立っていました。チュー太は、チーズの材料の牛乳を仕入れに行った帰りのようです。

nezumi_wave_road.gif「おぉ、チュー太じゃないか。久しぶりだな。仕入れの途中か?」
「うん」
「そうか。元気そうで何よりだ」
「おかげさまで。チュー輔の方こそ、元気そうで良かったよ。少し心配してたんだ」
「心配? なんでだ?」
「だって、チュー輔は、たくさんお店を出しているから、すごく忙しいだろう?」
「まあ、忙しくないと言えば嘘になるけど、それで倒れるほどじゃないよ」
「そっか。安心したよ」
「オレのことよりも、そっちの調子はどうだ?」
「だから、元気だよ」
「そういう意味じゃないよ。商売の調子はどうだって聞いたんだ」
「あぁ、そういうことか。そっちは、まあまあってとこかな。僕はチュー輔みたいには儲けられないから、地道にがんばってるよ」
「それは嫌味か? オレだって地道にがんばってるさ」
「とんでもない。嫌味なんかじゃないよ。でもさ、今のチュー輔には、地道っていう言葉はあんまり似合わないよ」
「そんなことないさ。今だってこうして、新しい店を出す候補の場所を、自分で見て回ってるんだから。今日はここでもう3箇所目で、あと4箇所見に行く予定なんだ」
「ふうん。そうだったのか。じゃあ、悪いことを言ったかな。ごめん」
「いや、別にいいよ」

「それにしても、今日は会えて良かったよ」
「ん? なんでだ?」
「だって、チュー輔が全然変わってないって分かったから」
「そんなこと、当たり前じゃないか」
「でもさ、お金持ちになると、まるで違うねずみみたいになっちゃうことだってあるだろう?」
「オレは、そうならないよ」
「そうみたいだね。チュー輔は、そうじゃなくっちゃ」
「チュー太こそ、儲かって変わらないように気をつけろよ」
「僕の方には、その心配はないよ。相変わらず、自分一匹が暮らしていく分を稼ぐのに精一杯だよ」
「それは、今のところは、だろ? これから儲かるかもしれないじゃないか」
「そうなればいいけどね。でも、儲かったとしても、僕はたぶん、チュー輔みたいにお店をたくさん出そうとは思わないだろうな」
「なんでだ?」
「だって、僕にはそんなにたくさんのお店を経営するのは無理だから。チュー輔は、どうやって、そんなにたくさんのお店のことを見てるんだ?」
「どうやってって、たまに見に行くだけだからな」
「たまに見に行くだけで、大丈夫なの?」
「心配してたらキリがないよ」
「へぇ~、さすがだね」
「大したことじゃないよ。ところで、チュー太、早く牛乳を持って返らないと、品質が落ちちゃうんじゃないのか?」
「あ、そうだね。それに、忙しいのに邪魔しちゃったね。じゃあ。またね」
「じゃあ、また」

nezumi_wave_road.gifそう言ってチュー太を見送ったチュー輔でしたが、実は一つのことが気になっていました。それは、チュー太と最後に交わした会話です。チュー輔は、本当にたまにしか、お店を見ていません。心配してたらキリがないと自分で言ったものの、急に心配になってきたのです。だからチュー輔は、あとの予定を変更して、自分のお店を見に行くことにしました。

1店、2店、3店と、チュー輔は次々に自分のお店を見て回りました。そして、特に変わったところはないと分かって、安心しました。でも、念のため、もう少しだけ他のお店も見て回ることにしました。
5店目も6店目も、特に変わったところはありませんでした。それなのに、なぜか違和感があるのです。だから、さらに他のお店も見に行きました。でも、どうしても違和感の理由が見つかりません。何かがおかしい気がするのですが、どこがおかしいのか分からないのです。
だからチュー輔は、気のせいだと思いました。もしかしたら、チュー太が言っていたように、忙しすぎて疲れているのかもしれないと思ったのです。

それからしばらくして、チュー輔のお店全体の売上が減り始めました。お客さんが、減り始めたのです。でも、ほんの少しだけです。だからチュー輔は、今までよりももっとたくさんポスターを貼り出しました。すると、またお客さんが増えて、また売上が増えました。
でも、すぐにまたお客さんが減って、また売上が減ってきました。だからまたポスターを貼り出すのですが、今度はあんまりお客さんが増えません。ポスターが足りないのかと思って、もっともっとポスターを貼り出しましたが、お客さんの数は減る一方です。

chuta_pencil135_151.jpgそこで、やっとチュー輔は気づきました。お店を始めた頃と今とでは、お客さんの質がまるで違っていたのです。最初の頃は、オシャレに敏感なお客さんばかりだったのに、今はあんまりオシャレじゃないお客さんが多くなっていたのです。

第6章 お客さんは急に増やすな<後編>へ続く
※2012年4月17日(火)公開!

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順調にお店を拡大していたチュー輔でしたが、急な拡大だったためそこに落とし穴がありました。チュー輔はいったいどんな行動に出るのでしょうか。